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「セルマなんて構わなきゃいいのに……なんでこんなにも人が好いんだろうボクってば……」
「ワーズ……普通、そういうことは自分で言わない方がいいんじゃないか?」
「君に言われたくはないよ!」
「俺は、自分は人が好いだなんてこと、コレッポッチも思っちゃいないし、口に出して言った覚えも無いぞ?」
「自ら自分を『美しい』とか断言しちゃってるじゃん!」
「そりゃ俺が美しいのは事実だからな。この万人が認めざるを得ない純然たる事実を、言葉に出して言わないでおくことなど誰が出来ようか、いや、決して誰にも出来はしまい」
「――もういいよ……僕が悪かったよ」
そうやって、さめざめと泣き出されても……俺が悪者みたいに見られるからやめて欲しい。ホントやめて欲しい。
「ところで、何か用だったか?」
訊いてやるや、即座に涙を引っ込めて――器用だな!――ワーズが、ケロッとした顔で「別に」と返す。
「セルマが一人で、あまりにもつまんなそうにしてたから、ちょっと様子を見に来ただけ」
「…よーし、歯を食い縛れ」
「え!? そこ、怒るとこなの!?」
ヤダやめて暴力反対! と逃げかけるワーズの首根っこを捕まえて引き寄せると、「冗談だバーカ」と、目の前近くから馬鹿にしてやった。
一瞬だけ目をぱちくりさせて硬直した彼だったが、すぐさまむうっと頬を膨らませて白い視線を投げてくる。
「本当に……普段にも増して性格まで悪くなってるよね」
「性格の善し悪しなんざ、この俺の美貌の前では取るに足らない瑣末なことでしかないと、思わないか?」
「はいはい、もう好きに言えばいいよ」
相変わらず失礼にもホドがあるタメ息の吐きっぷりを披露してくれながら、「でも本当に…」と、いつになく真面目な眼差しを俺に向けて、ワーズが訊く。
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