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そんな捨て台詞を残すや、その場を逃げ去らざるを得なかった、その屈辱は、こうして数日経った今もなお、俺の中でめらめらと生々しく焼き付けられている。まるで生傷を抉るかのように。
――あああもう、胸クソ悪ィっ……!
「………セルマ」
――とっととスッキリ忘れてーのに……なんでこう忘れられねえんだよ、あんちくしょうめ……!
「…セルマ、聞こえないのか?」
――ああ気に入らねえっ……思いっクソ、気に入らねえっっ……!
「おい、セルマ!」
「ああっ!? なんだよウッセエなっっ!!」
怒りに任せて振り返った途端――その場の空気がピシッと張りつめたのが、さすがに俺でも理解できた。
俺は振り返ったそのままガッツリ硬直するしか出来ないし。
こちらを遠巻きに見ていた全員が、訓練教官さえも、同じように硬直しているだけ。
誰もが言葉を発しない、一瞬にしてシーンと静まり返った無音の空気の中。
俺の目の前から、ゆっくりと、低い声が発される。
「――ずいぶんと威勢がいいじゃないか、エイス・セルマ」
振り返った目の前で俺を見下ろしていたのは、――なんと、アレクセイ・ファランドルフ副団長閣下。
今の今まで考えていた相手が、いきなり目の前に現れていた。
「な…なんで、こんなとこに……?」
敬礼も忘れて呆然とする俺の口が、勝手にそんな疑問を吐き出す。
なのに不敬だと怒りもせず、鷹揚なまでに副団長が、「ご挨拶だな」と返して、口許だけで軽く笑んだ。
「時間が空いたのでな。可愛い部下の訓練を見学することくらい、上官としては当然だろう?」
そういえば、ワーズが言ってたっけか。――副団長は、仕事の手が空くと、出来るだけ騎士たちの訓練の場に顔を出しに行く、とか何とか。
普通、幹部なら全体演習の時しか訓練なんかに参加することは無いっていうのに、副団長の場合、そういった場以外の訓練にも顔を出しては、騎士たち一人一人の把握に努めてらっしゃるんだから、スゴイよね! …なんてカンジに、やや興奮気味に語られたのを思い出す。
それで、こんな新人の訓練にまで顔を出したのか……そりゃまー御苦労サンですねー。
とは思ったものの。
しかし、なぜ俺が、こんな目の前から呼ばれているのかが、わからないではないか。
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