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「次はおまえの番だと聞いたから、わざわざ呼びに来てやったのに……」
――なんだ、そういうことか。
「返事を返さないばかりか、言うことが『ウッセエ』とは……」
途端、喉の奥から“ウ”とも“オ”ともつかない変な呻きらしきものが洩れる。――やばい俺、今ホントやばい。このまま死ぬ。すぐに死ねる。
さすがに、こんな衆人環視の只中で、よりにもよって副団長を罵倒してしまったからには、もはや俺には、誤魔化しようも逃げ場も無い。
ああこのまま副団長に一泡も吹かせられないまま除隊なのかー……俺の騎士生活、短かったな……。
顔を引き攣らせて硬直する俺の脳裏には、間違いなく本気で走馬灯が回り始めていた。
だが副団長は、そんな俺に、こう言ったのだ。
「血の気が有り余ってるようだな、セルマ。――では、私が相手になってやろうか」
「へっ……?」
「相手が私では不満か?」
「…………」
――あれ……どこへ行った走馬灯?
一瞬だけポケッとした後、慌てて俺は、ぶんぶんぶんぶんっと、可能な限り首を横に振ってみせて応えた。
「お相手、よろしくお願いしますっっ!!」
そして土下座。
とりあえず首の皮一枚繋がったー! と安堵すると同時、一時的に遠くに追いやっていた副団長に対する怒りが、またフツフツと湧き上がってくる。
――よーし、訓練にかこつけて、コイツを叩きのめしてギャフンと……!
そして十数分後、ギャフンと言わされたのは俺の方だった。
――この俺が……! 腕よし顔よし頭よしの、三拍子揃ったこの俺が、負けるとか何だそれ……!
ああいい汗かいたなーとばかりに機嫌良く颯爽と副団長が立ち去ってから。
最高潮にまで不機嫌オーラを全開にした俺が、総当たり戦にかこつけ、その場に居た同期全員を叩きのめしたことは、
もちろん、言うまでもなかった。
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