【前編】

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*  目を閉じれば、まざまざと眼裏に甦る。――剣を構えた副団長の姿。  ――絶対、勝てると思ってた……。  副団長は、見るからに大柄で筋肉質で、膂力も申し分なさそうで、佩いてる剣も大ぶりな長剣だし、で……だから普通に考えて、コイツは重量級だなと思った。  力押しでくる相手こそ、俺の最も得意とするところだ。  力任せの攻撃なんて、マトモに受け止めなければいいだけのことだ。受ければコッチがダメージ食らうが、避ければ相手にダメージが撥ね返る。その隙を突けばいい。  ――でも、そんな俺の浅知恵なんて、とっくにお見通しだった、ということか……。  結果だけを見てみれば、俺の目論見は、ことごとく外れた――いや、“外された”のだ。  おそらく副団長は、自分の外見が、相手にどんな印象を与えるのかを、よく理解しているのだろう。そのセオリー通りに繰り出されてくる攻撃を、まさに掌を返すかのごとくに裏切ってくれちゃう意地悪にもホドがありすぎるっつー性格の悪さが如実に反映されているだろう反撃方法に、ものすごーっっく! 長けていたのである。  それで、こちらのペースを乱され、結局は負けたのだ。  認めたくはないけれど……副団長は強かった。もうハンパなく強かった。  だが、不思議と悔しいとは思わなかった。  当たり前だと、素直に納得してしまった自分がいて……そんな自分が、ものすごく腹立たしくなった。  それに……どこまでも認めたくはないけれど、立ち合う前から副団長に飲まれていた、それも事実だったから―――。  対峙して、あそこまでの恐れを感じた相手なんて、初めてだった。  向き合って、その気迫を感じて、少しだけ心が竦んだ。  もし真剣で立ち合っていたら、きっと訓練ごときの比ではないのだろう。  あれで貴族の坊っちゃんだとか、ホント詐欺だと思う。  あの凄みは、何不自由なく暮らしてる恵まれた貴族の坊っちゃんなんかが、絶対に持ち併せていようハズも無いもの。
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