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「本当に、人違いなんだ……!」
無駄だとわかっていながら、なおも言い募る。
「俺は、シュバルティエ家なんか知らない、関係も無い……!」
「おまえの瞳――その綺麗な琥珀色は、シュバルティエの血筋に現われる独特の色だ」
しかし、副団長は逃がしてもくれなかった。どこまでも淡々とした口調を崩さないまま、そんなことを返してくる。
「瞳の色なんて、同じようなのが幾らでもある……」
「それと二十年ほど前になるが、シュバルティエ家の子息が駆け落ち騒ぎを起こしたことがあったらしいな」
「―――っ!!」
「その当人が、現在のご当主だ。おまえと同じ、明るい栗色の髪と琥珀色の瞳をした……」
「そんなの俺には何の関係も無い……!」
「髪と瞳の色以外は、おまえは母親似だそうだな。――そう、おっしゃっていたぞ」
――もう、そこにまで手を回してやがったのか……。
俺の面通しまでさせた相手――そんなもの、聞かずともわかるではないか。
まさか、シュバルティエ家の現当主を引っ張り出してくるなんて。
副団長の言う通り……俺の父親は、ファランドルフ家にも並ぶ名門貴族シュバルティエ家の現当主だ。
母親は、普通の平民。
名家の跡取り息子のクセに、よりにもよって平民の女なんかにトチ狂い、手に手を取って駆け落ちした挙句、俺を生した。
結局、見つかって父は実家に連れ戻されて、あっけなく二人は引き離されたけど。
母の手元に残された俺は、とりあえず庶子として認知され、シュバルティエの家名を名乗ることだけは許された。
――だが、それを望んだことなんて、一度として無いのに……!
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