【前編】

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「私が、おまえのことを話したのは、おまえの父――シュバルティエ公爵当人にだけだ」 「え……?」 「シュバルティエ公爵は、おまえが行方不明になった時点で、死んだものと諦めていたそうだ。だから、ずっと探してもいなかった。それに、もう跡取りもいる。無理をしてまでシュバルティエ家におまえを呼び戻さなくても、何も問題はない。おまえが近衛騎士団に居ることも、公爵当人しか知らないことだ。だから安心しろ」 「――そう、か……」  少しだけホッとする。――ちゃんと俺は逃げ切れたんだ、あの家から。 「おまえが生きていてくれてよかったと、涙を浮かべていらしたぞ。おまえが望まぬのなら呼び戻すことはしないが、いつでも力にはなってやりたいと、そうおっしゃってもいた」 「じゃ、気持ちだけ有り難く貰っておくことにする。俺は、これまでも、この先も、エイス・セルマとしての人生しか生きる気はない」 「伝えておこう」 「よろしく」  はっと一つ、息を吐く。 「――じゃあナニ?」  そして、改めて目の前の副団長を見つめた。 「あんたは、シュバルティエから頼まれてもないのに、勝手に俺のことゴソゴソほじくり返してくれちゃったワケ?」 「まあ…そういうことになるな」 「生き別れた親子の間を取り持ってやるため…とか、言わないよなあ?」 「まさか! シュバルティエなんて大物が引っ掛かってきた時は、こちらの方が驚いたくらいなんだ」  それこそ調べなきゃよかったと思ったぞ…などとタメ息を吐いた様子からうかがえるに、どうやら嘘は吐いてなさそうだ。  よくわからなくなって、「なんで…」と、何となく俺は言葉に出して訊いてしまった。 「なんで、俺のことなんか知りたいんだよ……?」 「おまえが欲しいと思ったからだ」  すぐさま平然と返されたそのセリフに、思わず俺は目を丸くする。  これまでの人生で、それと同じようなセリフは、何度となくさんざん聞かされてきたものだったけど……いや、まさか。  ――よりにもよって、この副団長が言うことじゃねえだろう?
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