160人が本棚に入れています
本棚に追加
/97ページ
「私が、おまえのことを話したのは、おまえの父――シュバルティエ公爵当人にだけだ」
「え……?」
「シュバルティエ公爵は、おまえが行方不明になった時点で、死んだものと諦めていたそうだ。だから、ずっと探してもいなかった。それに、もう跡取りもいる。無理をしてまでシュバルティエ家におまえを呼び戻さなくても、何も問題はない。おまえが近衛騎士団に居ることも、公爵当人しか知らないことだ。だから安心しろ」
「――そう、か……」
少しだけホッとする。――ちゃんと俺は逃げ切れたんだ、あの家から。
「おまえが生きていてくれてよかったと、涙を浮かべていらしたぞ。おまえが望まぬのなら呼び戻すことはしないが、いつでも力にはなってやりたいと、そうおっしゃってもいた」
「じゃ、気持ちだけ有り難く貰っておくことにする。俺は、これまでも、この先も、エイス・セルマとしての人生しか生きる気はない」
「伝えておこう」
「よろしく」
はっと一つ、息を吐く。
「――じゃあナニ?」
そして、改めて目の前の副団長を見つめた。
「あんたは、シュバルティエから頼まれてもないのに、勝手に俺のことゴソゴソほじくり返してくれちゃったワケ?」
「まあ…そういうことになるな」
「生き別れた親子の間を取り持ってやるため…とか、言わないよなあ?」
「まさか! シュバルティエなんて大物が引っ掛かってきた時は、こちらの方が驚いたくらいなんだ」
それこそ調べなきゃよかったと思ったぞ…などとタメ息を吐いた様子からうかがえるに、どうやら嘘は吐いてなさそうだ。
よくわからなくなって、「なんで…」と、何となく俺は言葉に出して訊いてしまった。
「なんで、俺のことなんか知りたいんだよ……?」
「おまえが欲しいと思ったからだ」
すぐさま平然と返されたそのセリフに、思わず俺は目を丸くする。
これまでの人生で、それと同じようなセリフは、何度となくさんざん聞かされてきたものだったけど……いや、まさか。
――よりにもよって、この副団長が言うことじゃねえだろう?
最初のコメントを投稿しよう!