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「おまえの有能さは欲しい。このまま無駄に埋もれさせてしまうくらいなら、ぜひ私のために生かしてもらいたい。だが、おまえに限っては、どうすれば私を信頼してもらえるのか、最も必要なそれだけが分からないんだ」
ものすごく近い距離から俺を見つめてくる、その真剣な眼差しに息を飲む。
しばし、呼吸の仕方さえ忘れた。上手く息が出来ない。
そんな俺に、どこまでも真剣な瞳で……なのに、切ないくらいの色気を孕んで、副団長が「セルマ」と、俺を呼んだ。
「教えてくれないか? ――私は、どうしたら、おまえに信頼してもらえるだろうか」
ぐるぐる、ぐるぐる、と……頭の中が回る。混乱する。何も考えられなくなる。もうワケがわからない。
なぜ、この俺が、ここまで動揺させられなければならないんだ。
本当に、ペースを乱されてばかりだ。
――副団長を、俺が信頼するためには、何をしたらいいか……?
知るか、そんなもの! 俺の方が知りたいわ!
でも副団長が、すぐ目の前で俺の答えを待っている。
何か言わなくちゃいけないのに……何を言えばいいのかがわからない。言葉が出てこない。
ただ動けないままに、その瞳を見つめ返していることしか出来ない。
掴まれている腕が熱い。なのに、振り払うことも出来ない。
「――セルマ?」
黙りこくったままの俺を訝しんだのか、おもむろに名前を呼ばれて。
途端、俺はビクッと大きく肩を揺らした。
「聞いていたか、人の話?」
少しだけ眉をひそめて、副団長が尚も俺の顔を覗き込んでくる――その気配を感じて、これ以上顔を近付けられる前に、すかさず俺は背後へ仰け反っていた。
と同時に、椅子の上に付いたつもりだった手が空を切り、バランスを崩して身体が傾く。
「あれ……?」
「おい……!」
椅子から転げ落ちかけていた身体が、床に付く寸前で止まった。
「何をやっているんだ、おまえは」
降ってきた呆れ声に視線を向けると、あからさまに呆れた表情を顔全体に張り付けつつ、副団長が俺の腕を引いて支えてくれていた。
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