【前編】

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「とにかく上がれ、ちゃんと座れ」  言われて更に腕を引っ張られ、俺もようやく身体を起こす。  改めて真正面から副団長が俺を見据え、「本当に落ち着きが無い」と、タメ息を洩らした。 「おまえは、どうすれば人の話をマトモに聞いてくれるんだ?」 「いや、ちゃんと聞いてましたけど……」 「聞いていて、どうして椅子から転げ落ちるのかが、わからんな」 「あーホントすみませんね……そこはお手数おかけしました……」  なんとなく、こうやって副団長と向かい合って座っていることに対し、きまりが悪くなって横へ視線を泳がせる。 「――私は、まだおまえの返事を、貰っていないぞ」  だが、副団長の落ち着いた低い声が、まだ俺を追いかけてくる。  そんなこと言われても……まだ俺の頭は冷静になっていない。上手い言葉なんて返せない。 「聞いてるのか、セルマ?」  再び自分へ向けて伸ばされたその手を、思わず俺は振り払っていた。 「――あんたは、どうなんだよ……!」  無意識のうちに、ぽろりと言葉が零れ出た。 「俺に『信頼してくれ』って言う前に……あんたこそ、俺のどこを信頼してくれてんだ、っつー……」 「セルマ……?」  その不思議そうな声音にイラっとして、思わず副団長を振り返ってギッと睨み付けた。  驚いたように瞠られた、その瞳に向かって言葉を投げつける。まるで当たり散らすかのように。 「人に信頼して貰いたかったら、自分から相手を信頼しやがれ! それも出来ねーくせに、右腕が欲しいだの何だの、ゼータクぬかすなっ!」 「信頼しているぞ」 「は……?」 「私なりに、セルマ、おまえのことは信頼に値する人間だと思っている。――でなければ、こんな話など持ちかけたりはしない」 「なっ……!?」  俺のは、答えが纏まらないことに苛立ったあまりの、ほとんど八つ当たりでしかない言葉だったのに。  にも関わらず、あまりにもきっぱり返され、俺は面食らって絶句した。
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