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「とにかく上がれ、ちゃんと座れ」
言われて更に腕を引っ張られ、俺もようやく身体を起こす。
改めて真正面から副団長が俺を見据え、「本当に落ち着きが無い」と、タメ息を洩らした。
「おまえは、どうすれば人の話をマトモに聞いてくれるんだ?」
「いや、ちゃんと聞いてましたけど……」
「聞いていて、どうして椅子から転げ落ちるのかが、わからんな」
「あーホントすみませんね……そこはお手数おかけしました……」
なんとなく、こうやって副団長と向かい合って座っていることに対し、きまりが悪くなって横へ視線を泳がせる。
「――私は、まだおまえの返事を、貰っていないぞ」
だが、副団長の落ち着いた低い声が、まだ俺を追いかけてくる。
そんなこと言われても……まだ俺の頭は冷静になっていない。上手い言葉なんて返せない。
「聞いてるのか、セルマ?」
再び自分へ向けて伸ばされたその手を、思わず俺は振り払っていた。
「――あんたは、どうなんだよ……!」
無意識のうちに、ぽろりと言葉が零れ出た。
「俺に『信頼してくれ』って言う前に……あんたこそ、俺のどこを信頼してくれてんだ、っつー……」
「セルマ……?」
その不思議そうな声音にイラっとして、思わず副団長を振り返ってギッと睨み付けた。
驚いたように瞠られた、その瞳に向かって言葉を投げつける。まるで当たり散らすかのように。
「人に信頼して貰いたかったら、自分から相手を信頼しやがれ! それも出来ねーくせに、右腕が欲しいだの何だの、ゼータクぬかすなっ!」
「信頼しているぞ」
「は……?」
「私なりに、セルマ、おまえのことは信頼に値する人間だと思っている。――でなければ、こんな話など持ちかけたりはしない」
「なっ……!?」
俺のは、答えが纏まらないことに苛立ったあまりの、ほとんど八つ当たりでしかない言葉だったのに。
にも関わらず、あまりにもきっぱり返され、俺は面食らって絶句した。
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