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「そりゃあ、ずいぶん綺麗で毛並みのよろしい弟さんなんでしょうねえ~……?」
だって、この俺に似てるくらいだしぃ? と、わなわな引き攣る口許を何とか動かして、あからさまな嫌味口調で言ってやったというのに……しかし事もなげに「ああ、もちろん」という即答が返ってくる。――どんだけブラコンだ、この兄馬鹿は。
「確かに、綺麗ではあるのだが……とはいえ、やはり可愛いな。そこだけは、おまえと違うところか」
「は……? なんだって……?」
「だから、おまえは可愛くないと……」
「はあ~ァ!?」
――いま何て言ったコノヤロウ……!?
「これまで『可愛い』は勿論、『美しい』だの『綺麗』だの『麗しい』だのと、この世の中に存在するありとあらゆる美辞麗句を言われ尽くしては褒めそやされまくってきたこの俺様の美貌に向かって、よりにもよって『可愛くない』だとぅ……?」
「さすがに可愛くはないだろう、ここまで育ちきった大の男が。――というか、そういうセリフは心の中だけに仕舞っておくべきではないのか普通は?」
「ウルセエよ! つい言葉に出してしまわざるを得ない俺の輝かんばかりに溢れては止まらない美貌に、まずは謝りやがれよコンチクショウっっ!」
「――反省文、追加二十枚だな」
「うっ……!」
「でなければ、減俸二カ月。――どちらがいい?」
「ど…どちらもイヤだな~……」
「ああ、上官に対しての侮辱罪が適用されれば、最悪、除隊処分も有り得るか……」
「――反省文、書きますっっ!」
「いいだろう。明日、朝イチで提出、期限厳守だ。それで手を打ってやる」
そして、すかさず目の前に突き出されてきたのは、先ほど俺が提出したばかりの、反省文十枚の紙の束。
「あと、これも書き直し」
思わず「なんでっ!?」と泣きそうな声を上げた俺を、白い目で冷ややかに見つめてくださった副団長が、呆れんばかりの表情を向けてくれながら、それを言う。
「私は『反省文を書け』と言ったのであって、『美味しいシチューの作り方を書け』とは言っていないぞ」
「は……?」
「ニンジンだのジャガイモだのタマネギだのの分量で嵩増しするのは、とてもじゃないが反省している者の所業とは言い難いな」
――うーわー……バレてーらー……。
さっきちょっとペラペラッと流し見てただけなのに……なんでこんなにも早く気付きやがるんだコイツは……。
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