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翌朝、ほとんど一睡もできず反省文三十枚を書き上げて、よれよれと食堂へ朝食を食べに赴いた際。
「――あれ? セルマ、それ……」
隣に座っていたワーズが、目ざとく俺の手首に気付いた。
俺の左手首に巻かれているのは、石飾りの使われている見た目ちょっとばかり高価そうな革の飾り紐。
「ああ。昨晩は寝る暇も無かったからな、付けたまま忘れてたわ」
「それと同じようなやつ……以前、副団長が付けてたような気がするんだけど……?」
「なら、同じモンじゃねえの? ――だって、これくれたの副団長だし」
言った途端、隣りでワーズが手にしていたフォークをガッチャンと派手に音を立てて皿の上に取り落とし、目の前ではグラッドが飲んでいた水を喉に詰まらせたかゲホゴホと盛大に咽せ返る。――なんだ、その反応?
「――なんで……?」
「え……?」
「できることなら知りたくもないんだけど……なんで副団長が、セルマにそんなものくださってんの……?」
「そんなん、俺が知りたいわ」
別に誤魔化してるとかいうワケではない。本当に、昨日いきなりほいっとくれやがったのだ。一方的に。
去り際の俺を呼び止めると、『これをやろう、付けていけ』と、いきなり手首にぐるぐるっと巻き付けられてガッチリと縛られて。
『これでも多少の“虫除け”にはなるだろうしな』
などと言われ、なんだか意味ありげに笑われた。――ホント意味がわからない。
「つーか、知りたくもないなら訊いてくるなよ」
「いや、でも、そこは聞いておかなきゃ、今後のセルマの扱いに困るから」
「なんだそりゃ?」
「――てゆーか、セルマ、知らないの……?」
そこで、ようやく呼吸を整えられたらしいグラッドが、恐る恐るといった風に口を挟んでくる。
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