【前編】

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「わかった……じゃあ本人のとこ行ってくる……どうせ反省文を提出しに行かなくちゃならないところだったんだ、そのついでもあるしな……」  呆気にとられたように力の抜けた二人の手を振り払って、俺はニヤリと笑みを浮かべる。――後からワーズに、それはそれは物凄く凶悪さが滲み出ていた笑顔だったよと、震えながら言われたものだ。 「副団長の目の前で、がっしがし切り刻んでくれるわ、こんなもん……!」 「いや、ちょっと待てセルマ……!」 「だから切るなと、おいセルマ……!」  慌てて俺を引き止めようとしてくる二人の手をかわしながら、俺は怒りのあまり無意識にフフフフフと不気味な笑い声を振りまきながら、そのまま足音も荒く食堂を後にする。  という、そんだけの大騒ぎを、よりにもよって食堂なんかでしていたのだから、当然それが噂にならないだろうはずもなく―――。  気が付けば、いつの間にやら俺は、あの男色嫌いのお固い副団長まで惑わせた男として、全くありがたくもない『魔性』の称号をランクアップさせてしまっていた。  尾ひれハヒレの付いた噂ってスゲエよな。おかげで今じゃ誰も俺に言い寄ってきたりなんてしなくなったのだから。  だって俺は、今や『近衛騎士団に君臨する悪魔』だもんなー。  バリタチだろうがノンケだろうが、誰彼かまわず誘惑しては堕としまくる天性の魔性。――それが俺、エイス・セルマ。  団長と副団長、なんていう騎士団のツートップを手玉に取っちまった俺に、そりゃーわざわざ近寄ってくる物好きなんざいないよなー。  あはははは、ちゃんちゃら可笑しくってヘソで茶ァ沸かせるわあ。  ――って、笑いごっちゃねえええええっっっ!!!!!  そうやって、知らないうちに外堀から埋めていくという、あの副団長の性格の悪さとか性格の悪さとか性格の悪さとか……もうホント、いい加減どうにかして欲しいんだけど―――!
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