【後編】

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【後編】

      「――おい、セルマ」  歩いていたところ、ふいに呼び止められて振り返ると、そこには同期入団の新人騎士クロウリッド・リュシェルフィーダが立っていた。 「よう、久しぶりじゃねーか」  そういえばここ二~三日、こいつの姿を見ていなかったなと思い当たり、そんな声を返す。  リュシェルフィーダは、足を止めた俺の前までつかつかと歩み寄ってくるなり、どことなく困ったような表情で、手にしていたものを無言でこちらへと差し出してきた。  彼の大きな掌の上に載せられていたのは、小綺麗な装飾を施された小さな箱。――まさに、贈り物の装飾品でも入っているかのような……。 「なんだよ、これ? グラッドに渡しといて欲しいのか?」  ちなみに彼は、グラッドとデキている。――グラッドの元上官の淫行を副団長にチクッて除隊に追い込んだのも、実はコイツの仕業だ。  聞くや即座に真っ赤になって「違う!」と否定したリュシェルフィーダは、「これは君にだ」と、無理やり俺の手を開かせて押し付けるように載せてきた。 「つーか……俺、グラッドとオマエのチンコを共有する気は無ェんだけど……」 「馬鹿を言うな! そんなこと、こっちからお断りだ!」 「え? なに? じゃあ、おまえ俺に突っ込まれたい側?」 「それこそ、何があっても絶対にお断りだっ!」 「冗談だから、そうムキになるなって。――つか、思わせぶりなんだよ。こんな真似されたら誰だって、熱烈な愛の告白でもされてんのかと勘違いすんだろーが」  そういう意味じゃなくて…! と、言うべき言葉を言いあぐねているような苦しげな表情で、リュシェルフィーダがタメ息を吐く。 「これは、君に渡してくれと、預かってきたものだ」 「へえ、誰から?」  さして興味も無かったが、おざなりにそれを訊き、何となく渡された箱の蓋を開けてみる。  真綿に包まれ鎮座しましていたのは、それはそれは美しい琥珀の耳飾り。――これは高価なものだと、見るからにわかる。 「まさか……また副団長が絡んでんじゃねーだろうな?」  また何かよからぬことでも企んでんじゃないかと、少しだけ警戒して、リュシェルフィーダを見やるも。  しかし彼は、「いや」と、とてもアッサリ首を横に振ってくれた。
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