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「実はヤボ用があって、昨日まで実家の方に帰っていたのだが……」
「ああ、そういやしばらく見かけなかったもんな。実家に帰ってたのか」
コイツの実家――リュシェルフィーダ家は、それこそ、あのファランドルフ家と並ぶ名門貴族だ。
その当主の子息、なんていう身上であるコイツこそ、第二の副団長、と言っても過言ではないだろう。まだ近衛に入団したばかりの新人騎士で今でこそ俺と同格でしかないが、そのうちトントン拍子で出世して、近いうちに幹部クラスの地位にまで上り詰めるだろうに違いない。そして、ゆくゆくはファランドルフ副団長の後釜として、収まるべきところに収まるんだろう。
今でこそ気軽に彼を『リュシェルフィーダ』と呼び捨ててしまっているが、そのうち否が応でも、敬称を付けて呼ばなければならない時がくる。そう遠くない未来の話だ。
その未来の上官リュシェルフィーダが、やはりどことなく話し辛そうな様子で続ける。
「何だかんだあって夜会にまで駆り出されたのだが、そこでお会いして声をかけられて、それをゼヒ君に渡して欲しいと頼まれた。――シュバルティエ公爵から」
「は……?」
咄嗟にそう訊き返すや、顔半分を引き攣らせて絶句してしまった。
――いや、確かに、リュシェルフィーダ家の人間が参加するほどの夜会なら、シュバルティエ家の人間だって、居たっておかしかないだろうがよ……。
とはいえ何故、いきなりこんな高価そうな贈り物なんざ、しかもコイツに託してくるのか。
「なんだ、それ……?」
「そんなこと、私に訊かれても……」
どこまでも困りきった表情でリュシェルフィーダが、言いながら額に手を当て、まさに気持ちを落ち着かせるかのようにフーッと深く、息を吐き。
それから、おもむろに「セルマ」と、俺を呼んだ。
「君は、シュバルティエ家にとっての琥珀が、一体どういう意味を持つものなのか、知っているのか?」
「は……? 知るかよ、そんなもの」
「では、三公爵家に許された宝玉のことは?」
「はいぃ……?」
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