【後編】

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 彼の言う『三公爵家』――つまり、貴族の中でも頂点に君臨する由緒ある名門の三家、てことなんだが。  それが、ファランドルフ、リュシェルフィーダ、シュバルティエ、だということくらいは、さしもの俺だって知っている。それだけは。まがりなりにも王と貴族に近侍しなければならない近衛騎士であれば誰だって、基礎知識として知っておかなければならないことだからな。 「三公爵家の直系に連なる者には、その身分を示す証として、特定の宝玉を身に付けることを許されているんだ。――たとえば、ファランドルフ副団長は、よく紅玉を身に付けていらっしゃるだろう? ファランドルフ家は赤毛が多い家系だからな」  そういえば、副団長も赤みの強い茶髪だったっけな…と思い出す。また、俺は実際に見たことはないのだが、国王の正妃――元はファランドルフ家の御令嬢で副団長の実の姉君でもある、その御方こそ、それはそれは見事なまでに美しい、燃えるような赤毛の持ち主でいらっしゃるのだそうだ。そんな噂を、確かどこかで聞いたことがあったような気がする。 「我がリュシェルフィーダ家であれば、それは青玉となる。うちには北方の血が入っているから、全体的に色素が薄くて、青い瞳が生まれやすいんだ」  それを言う彼こそ、この国では滅多に見られない、薄い青の瞳の持ち主だ。その耳朶には、小ぶりな青玉の耳飾りが揺れている。  ここまで聞けば何となく解ってきた。ようするに……三公爵家それぞれの血に現われる特徴を、その証である宝玉の色が表している、といったところだろうか。  ――であれば、前に副団長の言ってた、シュバルティエの特徴って確か……、 「琥珀は、シュバルティエ家に許された宝玉だ。その血統には、独特な琥珀色の瞳が生まれるからね。――セルマ、まさに君の瞳のような」  ぎくっと、途端に身体が硬直する。  ――ちょっと待て……こいつ、なんか勘付いてないか……? 「それに耳飾りは、本来魔除けとなるものだ。家名を証する宝玉の耳飾りは、三公爵家の直系に赤子が産まれた際、その子供に贈るべく真っ先に用意される品。それを用意するのは普通、両親だ。――シュバルティエ公爵が、琥珀の耳飾りを、琥珀色の瞳を持つ君のために用意したということは、つまり……そういうこと、だろう?」  ――って、もはやバレバレじゃねーかっっ!!
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