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だいたい耳に穴なんて開いてねえし! と、言いながらぶんっと投げ付けてやったその箱を、しかし副団長は難なく受け止めてくださりやがる。
そして、いけしゃーしゃーと、こんなことまで言いやがった。
「いい機会だ、穴くらい開ければいい。なんなら私が開けてやるぞ」
「要らんお世話だ!」
「セルマに琥珀は似合うと思うのだが……」
「当たり前だ! この美しい俺様に似合わない宝石なぞ無いわ!」
「なら、ゼヒ開けようじゃないか」
「開けねーよっっ!!」
と言ってる傍から、人の話も聞かんとこの副団長は、執務室の隣りに在る副官や小姓たちの詰めている続き部屋に声をかけて、「氷を持ってきてくれ」などと頼んでいる。――て、開ける気マンマンじゃねーか!
「ちょうど夏至祭の夜会もあるしな。耳の穴の一つや二つ、開いていた方が都合がいいだろう」
「は……? なんだそれ……?」
「連れていくのはリュシェルフィーダだけでいいかとも思っていたが……セルマ、おまえも参加しろ」
「――はア!?」
「それを見越したからこそ、シュバルティエ公爵も、この時期に耳飾りなぞ贈ってきたのだろうし。まあ、滅多に出来ない親孝行だと思って、顔くらい見せてやれ」
「なんっだ、それっっ……!!」
思いもよらない命令に、もはや呆れ果てて言葉が出ない。
――夏至祭の夜会に参加……ひょっとして、それは、つまり……、
顔を引き攣らせて絶句した俺へ、副団長がニヤリと人の悪い笑みを向けてくる。
「これでおまえもコチラ側の仲間入りだな。――楽しみだな、おまえのお披露目」
――やっぱりかー!!
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