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「――まさか、セルマがシュバルティエ家の御曹司だったとは……」
「御曹司じゃねえしっ!」
タメ息吐き吐き遠い目をしたワーズの言葉を、すかさず食い気味で否定する。
「生き別れてた父親がたまたまシュバルティエ家の当主だった、ってだけで、そこに俺は一切、関係はないから!」
「…いや、それ以上の関係なんて他に無いでしょーよ」
結局、いま俺の両耳朶には、例の琥珀の耳飾りがぶらさがっている。
抵抗も虚しく、あれから時間を置かずして氷が届くや、それを持ってきたワーズにまで手伝わせて副団長が俺の耳朶を冷やさせると、挙句どこからかぶっとい針まで持ち出してき、それを一切の躊躇もなく、むしろ嬉々として、ブッスリ貫通させてくれやがった。
おかげで熱が戻ってきた今、じんじん痛い。むちゃ痛い。むしろ熱い。
しかも、『穴を安定させるためだ、向こう一週間は絶対に外すなよ。外したら減俸』なんていう理不尽な厳命まで下され、どんなに痛くても耳飾りを外すことも出来やしない。
つまり今の俺ってば、まさに“ボク、シュバルティエ家の直系なんデス!”って言って回りながら騎士団内を歩いているよーな状態、だった。
だって、耳に穴を開けた今日の今日で、その話がもう騎士団内に知れ渡ってしまっているんだからな。――なんてこったい。
「しかし驚いたな……副団長は、いつから知ってらしたんだ?」
「最初から俺の素性なんざ、とっくに調べが付いてたみたいだぜ」
はーすごいねさすがー…などと感嘆のタメ息まで洩らしながら、ワーズが俺の耳を消毒してくれる。――これも副団長命令で、同室なのをいいことに、コイツは当面の間、俺の耳の消毒係になってしまった。
「俺が『絶対にバラすな』と頼んでいたから、これまで言わずにいてくれてただけだ」
「じゃあ、あの“虫除け”だっていう飾り紐も? ひょっとして、セルマの身分を知ってた副団長が気を遣ってしたこと、だった?」
「大方、そんなとこじゃねーの?」
「ナルホドねー……どぉりで」
あの副団長がそんな真似するなんておかしいと思ったと、ワーズが軽く笑い飛ばす。
――笑い事じゃねえし。
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