【後編】

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 何だかんだ、あの飾り紐はまだ俺の手元に在る。  あの後、もちろん俺はヤツの執務室に乗り込んでいって、反省文を提出するついでに、『よくも人のこと騙してこんなもん縛りやがって…!』と、持参したナイフで手首の紐を切ってやろうとしたのだが。  その寸前、俺を追って同じく執務室に乗り込んできたワーズとグラッドにより『それだけはやめろ!』と取り押さえられ、いきなり目の前で繰り広げられたドタバタ寸劇に呆れ返った副団長の手によって、無事に解かれ外される運びとなってくれた。  なのに、軽く纏めて括られたその紐は、当然のように俺の手へと返されたのだ。 『…要らねーし』 『一度おまえにあげたものだ、いいから持っていろ』  それで、使うことは出来ないが何となく捨てることもできず、仕方なく纏めて括ったまま持ち歩いている。――いや、持ち歩いているのもさして意味はなく! 強いて言うなら、いつでも突き返せるように! みたいな!  ――ホント笑えねえよ……。  そうやって、自分の知らない間に外堀ばかり埋められて……もう逃げ場なんて無くなってる。追い詰められてる。 「あーもう、こんなん、俺の柄じゃねーんだよ……」  タメ息と共に、思わず心の声がダダ洩れてしまったが。  しかしワーズは、それを“御曹司なんて柄じゃない”という意味に取ってくれたようで。 「まあね、確かにセルマは、顔だけはどこまでも貴族以上に貴族っぽいのに、他が全てにおいて残念すぎるからねえ……」 「褒めるなよコノヤロウ」 「だから褒めてないっつの!」  すかさず繰り出される切れ味バツグンの裏手ツッコミ。――すげえよな、さすがの俺でも、これだけは避けられないぜ。
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