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ここの宿舎では四人部屋が最も大部屋で、平民出身者に割り当てられているのだ。貴族以上は二人部屋。一人部屋を利用しているのは、それこそ幹部とリュシェルフィーダくらいだろう。
近衛騎士団の待遇といったら、末端の隊に比べれば格段に良すぎるから、十人部屋とか二十人部屋とかに押し込まれることに比べれば、四人部屋でも充分快適だし不自由もない。これでも俺には充分すぎるくらいの環境なのだが……、
「副団長は、セルマが望まないのなら現状のままでもいいと仰ってはいたが……私としては、それもどうかと思うぞ。少なくとも周囲に示しが付かないだろう」
「ああ、そうだな……」
こいつの言うことは尤もだし、俺だって重々理解しているさ。
「でも俺は、このままがいいな」
しかし、考えようとする前に、やはり言葉が先に出てしまった。
「リュシェルフィーダの言わんとすることは解るけど……それでも、副団長がいいって言ってくれてんなら、俺は今のままがいいわ。その方がラクだしさ。――あと、俺がいなくなるとワーズが淋しがるし?」
「ええー、僕の所為ぃー?」
そこで不本意そうなワーズの声が上がるが、どこまでも大真面目に言ってやる。
「ワーズは淋しいと死んじゃうのよ!」
「――ウサギかよ!」
おお珍しくツッコミ裏手パンチが来ない…と思ったら、しっかりリュシェルフィーダが食らっていた。――ごめん、ワーズの一番近くに居た己を恨め。
「わかった……では、そのように副団長には伝えておこう」
「わかってるとは思うけど……ありのままに伝えんなよ?」
「心得ている。――セルマがワーズとデキている、とでも言っておけばいいだろう」
「あー……うん、じゃあ、そういうことで?」
「ちょっ!? 待て待て待て待て待て、何だよそれ! ヤだよ僕が副団長に殺されるじゃんっっ!」
「ワーズ……おまえの尊い犠牲は無駄にはしないぜ。愛してるよ、いつまでも君を忘れない」
「よし、話は纏まったな」
「ふざけるなよ、セルマ!! あ、ちょっと、どこ行くんだよリュシェルフィーダ!? ちょっと待ってよ、リュシェルフィーダーーーーーーっっ……!!」
結局、副団長へは、『セルマは「淋しいと死んじゃう」ので大部屋のままがいいそうです』と、リュシェルフィーダの口から大真面目に報告されたらしい。
――あの野郎、覚えてやがれよ?
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