【後編】

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*  夏至祭は、夏至の日に行われる国をあげての祝祭だ。  夏至――言わずと知れた、一年を通して最も昼が長くなる日。つまりは、昼の男神の力が最も強まる日として、夜の女神との逢瀬を祝う祭り、通じて、男女の縁結びの祝祭として、古くから親しまれている。  俺は、これまで王都に住んでいたことは無いので、ここで行われるそれがどんなものかは知らないのだが。  しかし、どこの田舎でも、この日は、独身の乙女たちが祭りの中心となっていた。彼女たちは花冠で着飾って、そんな彼女らに独身男たちが花を捧げて踊りを申し込む。――それはイコール、結婚の申し込みとなるのだ。  誰もが歌って踊って、存分に恋愛の喜びを謳歌する日。あくまでも主役は独身者たちではあるが、若い彼らを見守りながら、既婚者たちも大人の恋に酔いしれる。  ――ま、俺には全く縁遠い祭りでしかなかったけどな……。  なにせ適齢期になる頃には既に、俺は軍に属していたし、女なんて必要にならないくらい男どもの慰み者にされていたのだ。  夏至だから、祭りだから、などと浮かれる気分は、子供の頃に置いてきた。  何も知らない子供の頃なら、いつか祭りの日に可愛い女の子に求婚して所帯を持って子供は二人くらい欲しいな、なんて夢を見ることもできたけど……現実に上書きされて、そんなものとっくに消え去った。  夏至祭のことなんて……もう、あまり思い出したくもない。
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