【後編】

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 あー行きたくねーよー…と、勝手に寝台を占拠してゴロゴロ転げ回る俺を、おもむろに椅子から立ち上がったリュシェルフィーダが冷ややかに見下ろし、呆れた声でそれを言った。 「そろそろ支度するから。君もさっさと着替えてこい」 「え!? だって、まだ昼過ぎたばかりじゃん!!」  夜会って日が落ちてから始まるんじゃなかったっけ!? と目を瞠った俺に、「だから教えただろう」と、呆れを通り越してもはや疲れた、といった様相で、リュシェルフィーダが答えを返してくれる。 「正式な夜会は、身分の低い者から入らなければならないんだ! 開始時間ギリギリに行っても許されるのなんて、国王と三公爵家の当主くらいだぞ! 今回、私たちはあくまで団長と副団長のお伴で参加するのだから……」  ――そういえば、そうだったっけ……。  近衛騎士団内で爵位を持っているお貴族サマといえば、団長と副団長のみ。とはいえ、それでも最下位の男爵位だ。  ――そりゃー、祭り見物にも行けないワケだよ……。 「着替えてきまぁす……」  諦めてタメ息吐き吐き、素直に従った俺も自分の部屋に帰るべく、ようやく寝台から立ち上がったのだった。  団長、副団長、リュシェルフィーダ、そして俺、の四人は、近衛騎士の正装で夜会へと赴いた。夜会の場に武器の類の持ち込みは御法度だということだが、近衛騎士であればそれも許されるので、腰には儀式用の揃いの細剣を佩いていた。見るからに装飾過多すぎて、てんで実用には向かなそうなヤワい剣だが、それでも渋く光を放つ銀細工の拵えは黒を基調とした装いにはよく似合う。  ――しかし、堅っ苦しいなコレ。  詰襟で、ごてごてと紐飾りやら金釦やらで飾り立てられた正装は、重くてキツくて本当に肩が凝る。いや、肩どころか全身いたるところがばきばきに強張ってしまいそうだ。  そういえば俺は、この正装を、入団式の時の一度だけしか着たことは無かった。その時も終始、早く脱ぎたいと、そればかりを繰り返し繰り返し思っていたものだ。
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