【後編】

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 間もなく国王が姿を現し、開会の挨拶と乾杯も済み、ようやく夜会らしく、心地よい音楽や美味しい料理に彩られた、華やかな歓談の場が訪れる。  そうした空気の中、今度は身分の高い者から、その御前へと謁見の機会を賜ることになっていたようだ。  またしばらく待たされるが、その頃にもなると場の空気もだいぶ緩やかになっていて、俺以外の三人は付近の人間――ほとんど女性――に囲まれながら和やかに会話を楽しんでいる。  ――俺には、まだ到底そんな余裕は無いんだけどな。既に疲れきってるし。  とはいえ、それでも顔だけはニコヤカさを保つ。お付きの俺がそのくらいしておかないと、連れてきた主の面目が立たないしな。  近寄ってきた女性に「無口でいらっしゃるのね」なんて言われたら、それこそ無言で極上笑顔を返してやるくらいのことだって、喜んでしてやるさ。――まあ実際は、無言で『あっち行け』と追い払っているにも等しいのだが、別にバレなきゃ大丈夫だろう。  そうこうしているうちに、ようやく俺たちの順番が回ってきたようで。  人の波の隙間を縫うようにして、会場の上座、国王の御座所まで歩みを進めてゆく。  一段高い場所に王が座し、その最も近い場所に、三人の男性が立っている。――これが三公爵家の当主たちなんだろう。それぞれの装いにふんだんに使われている紅玉・青玉・琥珀が、それを物語る。  ――そういえば、初めてだな……父親の姿を目にしたのは。  そちらへ近づいてゆくに従って、父が俺を見つめているのが分かる。視線が合いそうになって、なぜか慌てて俺は目を逸らしてしまった。  侍従らしき者から名を呼ばれ、国王の御前へと進み出て礼を取る団長・副団長の姿に倣い、その後ろで俺とリュシェルフィーダも、共に深く頭を下げた。とった礼はすぐに解かれたが、それでも礼儀として、顔は伏せている。――失礼に当たるから身分の高い人を視線据えてジロジロ見ちゃダメだと、予め言われていたのだ。
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