【後編】

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 あんなことを仕出かしたくせに、それでも平然と自分の近くで小姓として仕事をする俺のことなど、団長も決して良くは思っていなかったに違いないだろう。とはいえ、それでも、隙あらば再び寝所へ呼び寄せんと機会をうかがわれていたような気も、しないでもなかった。まあ…つまりは、あれでケツ掘られるのに目覚めちまった、ってとこなんだろうが。しかしながら、俺が副団長にツバ付けられてるような噂が流れた所為で、それを為せなかったのではないか。さすがに団長も、天下のファランドルフ家出身で自分以上に仕事も出来る、そんな有能な副団長相手にケンカ売るよーな真似は無謀だと、重々理解していたとみえる。そこへきて、トドメとばかりに俺がシュバルティエ家の直系なんてことが判明してしまったのだ。もうコイツに手出しはできないと見限って早々に自分の近くから放っぽり出した、と。  俺に対する団長の、あれもそれもこれもどれも、大方そんなところなのではないだろうかと踏んでいる。 「それにしても、こうした場で会うのは久しぶりだな、アレクセイ。我が義弟(おとうと)よ。あれも淋しがっているぞ、時間があれば後宮に顔を見せに寄ってやってくれ」  話を振られたことが分かったのだろうか、少し離れた場所から、やはりきらびやかな女性たちに囲まれていた美しい赤毛の美女が、こちらを振り返って微笑みを寄こす。――あれが噂の国王の正妃、副団長の姉上か。想像していた以上に見事な赤毛だ。  正妃に視線を向けた時、その近くに居た女性の一人から、自分に向けられる刺さるほどの冷たく暗い視線を感じた。  ――そりゃ、こんな場所だしな……やっぱり居るよな……。  正妃を囲んでいる女性たちの筆頭は、間違いなく三公爵家の当主夫人だろう。――その向けられた視線の主の衣装には、髪飾りに至るまで、ありとあらゆる箇所に琥珀が鏤められていた。
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