【後編】

20/52
前へ
/97ページ
次へ
「それと……クロウリッドといったかな、リュシェルフィーダ家の騎士は? 其方とも久しぶりだ。前に会った時は私の腰ほどの背丈しか無かったが、実に立派になったものだ」 「憶えていてくださって光栄に存じます」  ソツなく応えるリュシェルフィーダを眺めて満足そうに頷いた王は、「これからもより一層、励むがよい」と返し、そして流した視線を、俺の上で止めた。 「さて……シュバルティエ公爵、其方の息子を紹介してくれぬか?」  俺の上に視線を留めたまま、傍らの父の方に話を振る。 「はい、陛下。息子のエイシェルにございます。直に御挨拶をさせていただいても?」 「もちろん許そう」 「有り難う存じます。――エイシェル、面をあげなさい」  伏せていた顔を上げると、同時に父から「陛下に御挨拶を」と命じる声が投げられる。  緊張する顔の筋肉を総動員させてニコヤカ~な笑みを浮かべてみせると、改めて真正面から陛下を見上げた。 「エイシェル・セルマ・シュバルティエと申します。今後とも、どうぞお見知りおきを」  そして、言うや再び礼をとって顔を伏せる。 「綺麗な琥珀色の瞳だ。さすが其方の血筋だな、シュバルティエ公爵。琥珀の宝玉も良く似合っている」  頭の上から、降ってくる陛下の声。 「それに、なんとも涼やかに美しき男ではないか。――アレクセイ、其方の弟分にも、よく似ていると思わぬか?」  なんだか含みありげに付け加えられた、その最後の言葉に応えた副団長の「左様ですね」という多くを語らない返答が、どことなく強張っていたようにも聞こえたのは……俺の気の所為だろうか? 「そういえばシュバルティエ公爵、息子に会うのは二十年ぶりだということだったな」 「ええ、ずっと死んだものだと思っておりました。それが生きていて、しかも、こんなに立派に成長して現われてくれるとは……」  言いながら目がしらを押さえ、声にまで涙が混じる。――よりにもよって王の御前で親馬鹿とかやめてくださいねー。こっちが居たたまれなくなるんだよ、この脳味噌お花畑野郎め。
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

160人が本棚に入れています
本棚に追加