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「後で親子水入らず、ゆっくり時間をとって二十年分の隙間を埋めるといい」
「そうさせていただきます」
――えー俺はイヤなんですけどー……。
しかし、そんなことは決して言えないので、この場はとりあえず「有り難うございます」の一言を返して茶を濁しておく。
こうして、どうにか謁見の時間も終わり、ようやく王の御前からも解放された。
この程度でも、三公爵家の人間が三人も居る、ってんで、他の者に比べてだいぶ長い時間をいただいていたらしい。――ホント余計なお世話だ、っちゅーの。
御前を辞すや、「では私は他に挨拶へ回ってくるから」と団長が消える。
「私も回らなければならないところがあるので外すが、おまえたちは好きにしていていいぞ」
副団長も、そう言いながら、しかし気遣わしげに俺を見た。
「相変わらず顔色がよくないな、セルマ。どこか静かなところで休んでいたらどうだ?」
「…はい、そうします」
「まあ、どこへ行っても視線が煩わしいとは思うがな」
「それは慣れてるんで」
「そうだった」
軽く微笑むと俺の肩をぽんと叩き、そして副団長も踵を返した。
「――休むのなら、露台にでも出よう。外の空気でも吸った方がいいだろう」
人の波に隠れて見えなくなるまで副団長の背中を見送っていたら、傍らからリュシェルフィーダの声が投げられる。
「いや、おまえだって行かなきゃならないとことかあるだろ? 俺は一人で大丈夫だから……」
「そんなもの無いから気にするな。それに、副団長から頼まれているんだ、なるべく君を一人にするなと。目を離すと何を仕出かされるか分からないからな」
「……子供じゃあるまいし」
「初めての場所では、子供も同然だろう」
大人の手は放さない方がいいぞ、とニヤリと笑んだリュシェルフィーダに、諦めて俺も笑顔を返す。
「じゃあママ、ボクを外まで連れ出してちょーだいっ!」
言って、わざとリュシェルフィーダの腕に絡み付いてやったら、即座に「うざい!」と振り払われた。――なんだよママ、つれないな。
俺たちがそんなやりとりをしていた短い間に、なんか後方で若いお嬢さんらしき集団の「きゃー!」という黄色い悲鳴が聞こえたような気がしたが……そこは、あえて聞こえなかったことにしておいた。
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