【後編】

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 途中で冷たい飲み物を受け取ってから、俺たちは露台に出た。  既に日は沈みきって夜の闇に覆われている。涼しい夜風が、室内の熱気で火照った肌を優しく撫でて吹き抜けてゆく。それがとても心地いい。  さすがに外に出れば人は少なく、相変わらずこちらをうかがっているような視線はあちこちから感じるが、それでも手の届く範囲に人が居ない分、とても落ち付ける。  露台を支える柱に身体ごと凭れかかって、俺は「もういいぞ」と、傍らに立ったリュシェルフィーダに声をかけた。 「俺はここで涼んでるから、おまえも好きなことしてこいよ」 「いや、大丈夫だ。私も少し涼みたい」 「そうか……まあ、おまえがいいなら、別にいいんだけどさ……」  でも、と冗談交じりに付け加える。 「俺と一緒に居たら、危険な目とかに遭っちゃうかもよ?」 「――シュバルティエ公爵夫人か?」 「あれ? なんか副団長から訊いてた、俺のこと?」 「いや何も……ただ……」  そこで言い淀んだリュシェルフィーダの様子から察するに、彼も、俺に向けられたさっきの視線を感じたのだろう。――目ざといヤツだ。コイツのそういうところは、わりと俺も普段から一目置いている。 「あの御方の、君を見つめる視線が……なんというか、どうも不穏だったもので、少し気になって……」 「うん……まあ、多分そうなんだろうと思うよ。あの女ぐらいしか、俺に刺客を向ける動機のある人間なんて、シュバルティエ家には居ないもんな」 「まったく……そこまで物騒なことを、よくもそう気軽に言えるものだな、君は」  呆れ声のリュシェルフィーダに向かい、そこで軽く微笑んでみせると、俺は手にしていた飲み物を口に運んだ。
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