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昔から……気付いた時は、もう当たり前になっていた。
自分を殺そうとしている者がいる。――それに気付くのにも、そう時間なんてかからなかった。
人づてに聞いたところによれば、母と引き離されて実家に連れ戻された父は、間もなくして妻を迎えたのだそうだ。――それが、さきほど目にしたシュバルティエ公爵夫人だろう。
父は、妻を迎える、家も継ぐ、母とも金輪際会わない、ということを条件に、母と俺の生活を保障するよう、シュバルティエ家に掛け合ったのだ。
だから俺は、母と共に、決して裕福ではなかったけれど何も不自由はない、それなりにマトモな生活を送れていた。しかも金銭的な援助だけではなく、俺たち母子の世話をする下女や、家計の一切を遣り繰りしてくれる執事、さらには俺を教育するための教師までもが、寄越されていたという厚遇ぶり。
それもこれも俺が、シュバルティエ家唯一の跡取りであった父の、長男であったからだ。
父が、今後もし男児を生せなかった場合、父の跡を継ぐのは俺しかいない。
万が一のための保険として、だからこそ俺は、シュバルティエ家にとって、それなりに大事にされなければならなかったのだ。さすがに後々の禍根となるかもしれないがゆえ引き取ることまでは出来なかったのだろうが、それでも平民の庶子としては破格の待遇を貰っていたのではなかろうかと、今ならば思える。
だが、父の妻にとっては、それが面白くなかったのだろうに違いない。
本来なら自分の産む息子が跡目としてチヤホヤ大事にされるべきであるのに、どこの馬の骨とも知れない女の産んだ子供が、その跡目候補として大事にされている。――そりゃあ、いたくプライドも傷付けられるというものだろうさ。
幾ら考えてみても、俺を殺す動機のある人間なぞ、その女しかいなかった。
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