【後編】

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 俺の憶えている限り最も古い記憶では、父の名前で送られてきた菓子が毒入りだった、という事件だ。  菓子を与えられた俺が、自分で食べる前に飼っていた猫に与えたから、それが発覚した。食べてすぐ猫が吐き戻し、ひくひくと痙攣したかと思うと、コロリと死んでしまったのだ。  その時のその猫の死に様は、子供の俺には物凄く怖ろしくて仕方なかった。しばらく夢にまで出てきては、怖ろしさに眠れなかった。おかげで、未だに記憶から忘れ去ることが出来ないでいる。  そうして以来、母も俺も、シュバルティエ家から送られてくるものは、特に警戒するようになった。おかげで何度も命拾いをした。  それで焦れたのだろう、今度は直接的に刺客が送られてくるようになった。  しかし、その頃には俺もわりと育っており、しかも、父は剣術の教師も手配してくれていたから、なまじの者なら自力で撃退できた。――というか、撃退できなければ殺される、という崖っぷちの状況では、どんな手段を使っても逃げ切らないわけにはいかなかった。  だから剣術の授業は、もう命がけで取り組み、おかげで腕はめきめきと上達した。率先して身体も鍛え、体力も付けた。  加えて、なるべく一人だけで外出しない、子供だけで遠くに行かない、など、狙われる機会を少しでも少なくしようと努めた。  それでも……まさに“とばっちり”のごとく、母は死んでしまったのだけど―――。  用心は、し過ぎるくらいにしていたつもりだったけれど、やはり俺も子供でしかなく、母のことにまでは気が回っていなかったんだろうと思う。  俺の命を狙っているのが父の妻だとすれば、当然、俺を産んだ母にも、その矛先が向かないはずは無かったのだ。  俺は、ずっと自分だけが狙われてるものと思っていたが……母も同時に狙われていたのだ。  母は、普通の庶民らしい慎ましい性格ではあったが、それでも茶だけは気に入って、それだけは取り寄せてもらえるよう執事に我が儘を通していた。  毒を警戒して、決してシュバルティエ家を通さないように手配していたのに……そうして手に入れた茶葉にまで毒を盛られていたなんて、そんなこと誰が思うだろうか―――。
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