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「セルマ……君、一体、何したの……?」
夕食を終え、宿舎に帰って自室の寝台でくつろいでいたところを、同室のワーズが、どことなく疲れたような顔で俺を覗き込んできた。
「『何した』って……何がだ?」
「まさか、自分が噂になってるの、知らないワケじゃないよね?」
「噂……?」
そういえばワーズはナニゲに情報通だ。知り合ってからまだ間もないが、面倒見のいい性質であることも大方わかってきた。
小姓として付いている副団長から頼まれているということもあるのだろうが、何くれと同期入団の面々を、普段から気に掛けてくれている。
だから、どんな些細な噂話でも、どこからともなく仕入れてきては常にフォローに走り回っているのが、このレット・ワーズという新人騎士に対する俺の印象だった。
「食堂でも、あんなに注目を浴びてたのに……それでも気付かなかったの?」
呆れたように言う彼を見上げながら、「何を今さら」と、何事でもないように俺は返す。
「俺が注目を浴びるのも、些細な噂のネタになるのも、そんなのいつものことじゃねえか」
なにせ俺は美しい。自分で言うのもナンだが、本当に美形だからな。どこへ行っても、注目は集めるし、噂の種にはなるし、――押し倒されたりだってする当然。
それをいちいち気にしていても仕方ない。面倒なことは流しておくに限る。
「今さら俺の美しさをゴチャゴチャ言うなよ」
「残念だ……本当に残念な美形だよね、君ってヤツは……!」
「いや、それほどでも」
「褒めてないし!」
即座に裏手パンチでツッコミくれやがったワーズは、諦めたように深々とタメ息を吐いた。
そして、ぐったりしたように、寝台の端に腰を落とす。
その様子から、どうやらわりと大事のようだと、俺もやや眉を顰めた。
思い返してみれば……今日一日は、普段にも増して注目を浴びていたような気がしないでもない。遠巻きにこちらを眺めながらひそひそ囁き交わされる、という光景を目にした回数も、普段よりも多くなかっただろうか。
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