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「夏至の夜に出歩いている者など、そういう目的の男たちばかりだからな。この時間になったら、出ている露店も、それ目的のいかがわしい店ばかりだし、治安がいいとは決して言えないな。今夜ばかりは、何が起ころうと警邏も目を瞑るしかない」
「だから女は皆、日暮れ前には家に引き籠るんだ。それでも出歩いているとすれば、よっぽどの無知か、ただの好きものだ。セルマほどの綺麗な男にしたって、それと同じことが言えるんだぞ。無防備にフラフラ一人で歩いていようものなら、すぐに暗がりにでも連れ込まれて乱暴されるのがオチだ」
「相手が一人で済めば幸運だな」
「確かに」
「うーわー……マジですかー……」
――なんって物騒なんだ、王都の夏至祭……!
「ひっでえ……! もはや出店の買い食いと食べ歩きだけを心の支えに、ここまで乗り切ってきたというのに……!」
ホントひっでえ…と、もはや泣きそうになりながらわなわな震える俺を眺め、どこまでも冷ややかにリュシェルフィーダが「子供か」と、呆れた声でバッサリ切ってくれやがる。
「子供だろうが大人だろうが、腹は減るんだよ! 気ィ遣った分だけ減るよーに出来てんだよ!」
しかし、どうしたらいいものか。食堂はもう閉まってるし、酒保ならまだ開いているだろうが、食うものなんてツマミになるような木の実の類とかしか置いてないだろうし……、
「もうヤダ……! しこたま疲れた挙句に空きっ腹かかえて朝まで過ごすとか何だそれ……!」
「夜会の場だからと見栄を張って何も食べないでいるからだろう」
「食えるか! あんな人ばっかいて落ち付けねー場所で! しかも、腹にたまるもの何も置いてねーしっ!」
そうリュシェルフィーダにがなり立ててしまった俺の頭に、ふいにぽんと、副団長の手が載せられる。
「分かった。――なら、おまえは私と一緒に来い、セルマ」
「へ……?」
「うちで何か食わせてやるから」
「『うち』……?」
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