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そんなこんなで、いま俺は、乗せられた馬車の中、帰宅する副団長と隣り合わせに座っているような事態になっているワケであり―――。
…いや、正直ありがたいんですけどね、この空きっ腹が満たされてくれるなら何でも!
しかも副団長は、宿舎へ戻るリュシェルフィーダに『念のため、セルマの外泊届を出しておいてくれ。あまり遅くなるようなら泊めるから』とまで頼んでおいてくれた。まさに至れり尽くせりってもんだ。
確かに、ありがたい限りなのだが……ただ、こうして二人きりで並んで座っているのは、ちょっとばかり気詰まりだなーと。何の気なしに俺は、窓の覆い布を軽くめくると、隙間から外ばかりを眺めていた。
無法地帯とは言われたが、夜の王都も、こうして安全な場所から眺めてみれば、それなりに楽しそうにも見える。まだまだ人は多いし、露店も多いし、祭り特有の賑やかさは失われていないし、あちこちで篝火が焚かれていて、まるで昼間のように見通せる場所さえある。
だからこそ……暗がりで蠢いている人影までもが、よく見えてしまった。
――あまり思い出したくない記憶が、思い出されてしまうなあ……。
「…そんなに外に行きたかったか?」
かけられた声に振り返ると、いつからこちらを見ていたのだろう、真っ直ぐに俺を見つめる副団長の瞳がそこに在った。
「ああ、すみません。いつも王宮内にいるから、王都ってあまり見たことなくて珍しくて」
窓の覆いから手を離して、俺は改めて居住まいを正した。
「副団長の言った通りですね。露店で売ってるのはいかがわしいものばかりだし、売ってる食い物なんて精力のつくものばかりだし」
「わかったら、一人で出歩こうなんて金輪際もう考えるなよ」
「わかりました」
そこは素直に頷いておく。
だが、妙に普段らしくなく素直な俺には、どうやら副団長も訝しく思ったらしい。――それはそれで失礼な話だが。
おもむろに「どうした?」と、心配そうな表情をのぞかせる。
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