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「浮かない顔だが、何か不愉快なものでも見つけてしまったか?」
「いえ、そういうワケではなくて……ああ、でも、あれはそうなのかな?」
「何を見つけた?」
「えーと……媚薬、とか売ってる露店を」
「媚薬……?」
「すっごい効きのいいのがあるんですよね。どこに行っても、夏至の夜は大抵それ使われるから、揃いも揃ってどこで手に入れてきやがるんだと思ってたんだけど……こうやって夏至祭の露店で売ってるものだったんだと、いま初めて知りまして。そりゃー手にも入れやすいだろうなと、ちょっと思い出してしまって」
「おまえは……よくもそういうことを事も無げに言えるな……」
おもむろに副団長が、コメカミに指を当てながら、重々しくタメ息を吐く。
「そうしょっちゅう媚薬まで使われなければならないとは……一体おまえはこれまでどんな生活を送ってきたんだ」
「そういうことまで、俺のことなんて、もう副団長はシッカリお調べ済みなんじゃないんですかー?」
「細かい情事の数々まで、知るはずがないだろう」
「でも、大まかなことは知ってるんでしょ?」
「それは……そうだな、どこに赴任しても、おまえが常に同僚や上官と関係を持っていたらしい、ということまでなら」
「それが全てですよ。それ以上でも以下でもない。俺はどこへ行っても、誰かの性欲処理の道具にされてた、それだけのことだ。でも別に、それはそれでいいんですよ。慣れてくればそれなりに気持ちよくはなれるし、俺も楽しんでやってたし。軍にいる以外、俺には他に行く場所なんてなかったからね、ここに居るしかないと腹を決めれば、どんな生活だって迎合できるさ。――ただ、それでも夏至の日だけは……あんまし思い返したくもない、っていうか……」
言いながら、軽く視線を伏せる。
何となく、真っ直ぐな副団長の視線を、真っ直ぐに見つめ返すことが憚られたから。
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