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「やっぱ夏至の夜は、“そういう意味”があるワケでしょ? どこへ行っても、相手のいない軍の男どもに、大勢で寄ってたかって突っ込まれんだよね。ヤツらも大抵、酒とクスリでブッ飛んでやがるから、やることも容赦なくて……初めのうちは、その後二~三日、医務室の住人になってたこともあったな。大体いつもクスリ使われてヘロヘロにされて、もう痛いとか疲れたとかわからなくなって、ただ快感だけしか感じなくなって、それこそ一晩中、がっくがくで立てなくなるまで腰振ってたから。ああ、痛い想いすんのが嫌で、自分から飲んだこともあったっけ。だから今でも、とりあえず媚薬は常備しておくようにしてんですよね。なくなるたび、その都度、持ってるヤツから巻き上げて。――あ、でも今は無いか。こないだ団長に使っちまったので最後だった」
また誰かから巻き上げとかなくちゃ、と、おどけた風にヘヘッと笑ってみせるが、副団長は何も言わなかった。ただ深いタメ息だけが返ってきた。
「ああ、そっか……すみませんね、男色嫌いの副団長閣下には、とてもじゃないけど聞くに堪えない不愉快な話でしたよね、こんなん」
「――男色嫌いでなくとも不愉快だ」
ようやっと、呻くように副団長が呟く。
「勘違いするな、おまえに対して、ではないぞ。おまえに無体な真似を強いた馬鹿な男どもに腹が立って仕方ない。不愉快にだってなるさ」
「はあ、それはすみません……」
「だから、おまえが謝る必要などどこにある! ただ可哀相でならないよ、おまえのことは……」
そして再び、タメ息ひとつ。深々と。
「しかし、セルマ……おまえは一つ、誤解している」
「誤解……?」
「私は別に、男色を嫌っているわけではないぞ」
「は……?」
それを聞いた途端、驚いて思わず伏せていた顔を上げてしまった。
「何を今さら。あんなに近衛では有名な話なのに……」
「あくまで私は、上官であることを笠に着て部下に無理強いするような真似が嫌いだ、というだけだ。角が立つから仕方なく放置しているが、本音を言えば、あの小姓制度自体をなくしたいくらいだ」
そして副団長は、また更に、あまりにも意外なことを、けろりと言ってのけてくださったのである。
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