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――いや、ある程度は想像していたハズなんだけどね、これでも……。
だって相手は正真正銘、爵位まで持ってらっしゃるお貴族サマなんだから。さぞかし立派なお屋敷なんでしょうねえ、と想像はしてた。けど……、
――想像でさえ追い付かない現実って、これ如何に……。
玄関前にまで乗り付けられた馬車を降りるなり、その場で馬鹿みたいにあんぐりと口を開けて立ち尽くしてしまった。
まず、屋敷がデカすぎる。――いや、これはまだ想像の範囲内だ。とはいえ、想像を超えて、どうもあちこち重厚かつ華美すぎやしませんか。
そして、人が多すぎる。――うん、執事やら下女やらが居ることは分かってた。しかし、それが玄関の前に勢揃いで頭下げてお出迎えとか……みんな暇だな!
「なにをボサッとしているんだ」
いきなり背後から副団長に背を押されて、よれよれと俺も歩き出す。
「いやー……立派なお屋敷ですねー……」
着いたらこれくらいのおべっかは言っておかなけりゃ、と考えていた言葉ではあったのだが、よもやそれが本心からの言葉になってしまおうとは我ながら計算外だ。
「そうでもないぞ。うちの親が持っていた一番小さなものを譲ってもらったからな、敷地もそう広くないし」
「………さいですか」
いっそ、こうなればファランドルフ本家を見てみたい気になってきたぞ。どんだけ豪華で広くて人が多いのか、もはや想像するのも怖ろしいわ。
玄関前の階段を上った先に、扉を開いて迎えに出てきた、執事らしき装いの男性が、こちらに気付いて一礼した。
「おかえりなさいませ、旦那様」
「ああ、いま帰った。――何か変わったことは?」
「とりたてて何もございません」
そう言葉を交わしながら歩く二人に続いて扉をくぐると、俺が入るや、すぐに背後で扉が閉ざされる静かな音が響いた。
広々としたこの玄関ホールにも、奥にある階段へ向かう直線上に、ずらりと人が並んでいる。――この家、どんだけ使用人多いんだよ!
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