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「――セルマ、何してる。早く来い」
俺を放っぽったまま既に階段へと向かいかけていた副団長が、おもむろに振り返って、そんな声をかけてくる。
慌てて俺は、執事さんに軽く会釈を返すと、その後を追いかけた。
居並ぶ使用人たちの列の間を抜けて、階段を上がり切ったところで、呆れたように副団長が小声で言う。
「まったく……ちょっと目を離すと、おまえは誰彼かまわず愛想を振りまくんだな」
「当然じゃん。俺、飯の用意してくれる人には優しいのよ。愛想で飯を出してもらえるんなら、幾らだって振り撒くわ」
「…ならば、まず私に感謝すべきじゃないのか」
「感謝してますよ、副団長にはちょー感謝しまくってますよー。でもアンタ、愛想笑いとか嫌いだろ?」
「…まあ、否定はしないが」
「じゃあ言うなよ、面倒くさいなアンタ」
「何だか、もう……私も面倒くさくなってきたな。おまえにエサを与えるのが」
「あっ、ひでえ! 話が違うし! なんなの、もー、ちょー感謝してるって言ってるのにー……」
これ以上なにをお望み? と言った俺の鼻を摘まんで捻り上げ、「おまえは、もう黙れ」と副団長がタメ息を吐いた。
そして通された部屋――おそらく副団長の私室なのだろうが、ここもまた絢爛豪華だったらこのうえもなかった。
更に、その部屋に居る副団長の姿ってのがまた、自分の部屋なのだから当然だろうが、なんだか妙にサマになっていて、こっちが変にドギマギしてしまう。入るなり無造作に襟元を寛げる仕草も、なんかものすごい格好いいじゃないか。
とそこで、自分も同じ服装をしていたことに気が付いた。
「俺も脱ぎたい」
「は……?」
「この格好、すっげ窮屈なんだよ。脱いでもいい?」
「――またおまえは、そうやって無防備に……」
どことなく独り言めいたその呟きが聞きとれなくて、反射的に「え、なに?」と訊き返そうとしたが、途端「いや、いい」と遮られる。
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