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「なんでもない……好きにしろ」
――つか、全く『なんでもない』って風じゃねーけど……。
そこまで微妙なカオなんてしてくれなくても…と咄嗟に思ってしまったくらい、そう応えてくれた副団長の表情が、驚いているようにも嫌そうにもとれる、ものすごい複雑なカンジだったから、ひょっとしてマナー的には脱ぐとかやっちゃダメなことだったんかな? と多少は心配になったものの。
まあここは夜会でもないし、公的な場でもないし、こんな二人しかいない私的な場ならば大丈夫だろう、と、ありがたくそのお言葉に甘えておくことにする。
そうして俺も、まず襟元から緩めようとするが……釦がキツくて、なかなか取れない。
――そういや、俺これ自力じゃ脱げないんだよなー……。
てゆーか、隠れ釦が多すぎて、どこをどう取ればいいのかわかんなくなるんだよ。
着る時は逆に、どこをどう止めたら正しいのかがわからなくなって、『やってくれー』とリュシェルフィーダに泣き付き、やはり『子供か!』と呆れられながら着付けてもらったのだ。
かといって、この副団長に『脱がせてください』とも頼み辛い。
もたもたしながら仕方なく襟元と格闘するしかない俺を、やはり相当見かねたのだろう、こちらから頼む前に、「もういい、やってやる」と、副団長が手を伸ばしてきた。
「そんな状態で、よく一人で着られたものだ」
「一人じゃ着られなかったから、リュシェルフィーダにやってもらった」
「………だろうな」
そこで部屋の扉がノックされ、副団長の「入れ」という返答と共に静かに開かれると、さっきの執事さんが顔を出した。
「食前酒をお持ちしました」
「ああ、ありがとう」
服の釦なぞを外されている俺の姿に、やはり多少は驚いたのか少しだけ目を瞠ったが、すぐに何事も無かったかのように部屋へ入ってくると、卓上に杯を並べ、酒を注ぐ。――綺麗な薄い金色の酒だ。
「ほら、取れたぞ」
言われて胸元に視線をやると、いつの間にやら、釦全部が外されている。
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