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「わーお、さすが早いね! ありがとうございまーす!」
ホント助かったーと、タメ息を吐きながら袖を抜くと、すかさず傍らから執事さんが「お預かりいたします」と、手を差し出してくれる。
「あ、じゃあ、お願いします」
そして、どこかに掛けておいてくれるのだろう、そのまま副団長からも脱いだ上着を受け取って、続き部屋の方へと歩いていく。
「とりあえず座ったらどうだ、セルマ」
振り返ると、杯の置かれた卓に向かい、副団長が椅子を引いている。
慌てて俺もそちらへ近寄ると、その向かいの椅子を引いた。
「あーもう、ホント肩凝ったー……」
ボヤきながら椅子へ腰を下ろすと、シャツの襟元の釦も外し、更に胸元を寛げる。――ふはー、ようやっと息が吐ける気がするぜー。
「貴族ってヤツは、なんであんな窮屈な正装なんてしたがるんだよ」
「おまえも、すぐに慣れるだろう」
「慣れませんね、絶対。あれ初めて着た入団式の時だって、正気の沙汰じゃないと、ずっと思ってた」
「その時も自力で着られなくて、ワーズにでも手伝わせたか?」
杯を手に、からかうようにクスリと笑われながら言われて、少しだけムッとはしたものの。
そういや俺、入団式の時どうしてたんだっけ? と記憶を辿る。
やがて、そう時間を置かずに思い出し、「ああ!」と、無意識にそれが洩れた。
「あの時はトゥーリに脱がせてもらったんだ」
「『トゥーリ』……?」
副団長が訊き返した、それと同時に、再びノックの音が響き、部屋の隅に控えていた執事さんが扉を開けにいく。どうやら夜食を持ってきてもらえたようだ。すぐに執事さんの手で、大皿に盛られたサンドイッチと果物の盛り合わせが、目の前に並べられる。
「うわ、うまそー!」
「食べていいぞ、セルマ」
「いっただっきまーす!」
ああ本日久々の食事ちょー美味いー! と感動して早速サンドイッチをパクついた俺は、だから副団長が何だか物言いたげにこちらを見ている視線なんて、全く気付きもしてなかった。
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