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「後は適当にやるから、もう休んでくれていいぞ」
「では、お言葉に甘えて下がらせていただきます。何がございましたらお呼びください」
「ああ、ありがとう」
そんなやりとりの後、執事さんが扉の向こうに姿を消しても、とりあえず食べるのに夢中だったから、全く気にしてもいなかった。
「…あれ? アンタ食べねーの? 美味いよこれ?」
とはいえ、目の前の副団長が、酒のアテに果物しか摘まんでいないことにはさすがに気付き、こうも自分一人だけがばくばく食ってることに気が引けて訊くも、「私はそこまで空腹でもないから、全部食べていい」と大皿ごとこちらの手元へ押しやられてしまえば、もはやラッキーとばかりにありがたく頂戴するまでである。
しかも、食前酒として出された酒が、また美味いのなんの。
「これ何の酒? 甘いけどしゅわっとしてるから口当たりよくて、すげー進む」
「林檎酒だ。あまり強くないから寝酒にも丁度いい」
「なに、アンタのお気に入りなの? ――イメージ違うなー、副団長は辛くて強い酒ガンガンいっちゃうクチだと思ってた」
「あまり酒が好きではなくてな。決して飲めないわけではないのだが」
「ホント、イメージ裏切るねアンタ」
「飲み過ぎるなよ。幾ら強くなくても、酒は酒だ。酔っ払いの面倒はゴメンだぞ」
「へいへい」
こういうところだけは外見どおりでおカタいんだから…と、ようやく杯を離すと、また改めてサンドイッチにかぶりついた。
そんな俺を、おもむろに副団長が「セルマ」と呼ぶ。なんだか改まったように。
「さっき、おまえは『トゥーリ』と言ったが……」
「ああ、あれね」
そういえば、うっかり名前で呼んじゃったよ、と思い出して、返事を返すべく口の中のものを、とりあえず一旦、飲み込んだ。
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