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俺は絶句して、もはや瞠った瞳で副団長を見つめるしかできなかった。
そんな俺の様子に、どことなく自嘲の響きを匂わせて、「軽蔑したか?」と、副団長が唇を笑みの形に歪める。
それを見止めてから、ようやく俺は、口を開いた。
「本音を言えば……俺がケツ掘ってやるべきだったのは団長じゃなくてアンタの方だったかと思ってる。アンタに対しても怒ってる。――でも……」
一旦、そこで言葉を切る。
相変わらず動かない副団長の表情を眺めやりながら、自然と俺の口から、諦めたようにタメ息が洩れた。
「でもアンタは、トゥーリの能力を認めてはいたんだろう? あいつの強さを認めた上でのことだ、って言うんなら……だったら、いいよ。納得は出来ないけど、それでもいい」
「そうか。――すまない……ありがとう」
副団長の瞳が細められて、眉がまるで泣きそうになる寸前のように寄る。
それを見て、ああこのひとはそれを誰かに許して欲しかったのかもしれないな、と……そう、何となく思ってしまった。
「いつか、すべて“事”が終われば……アクスは呼び戻そう。それは約束する」
「ああ、そうだな……是非そうしてやってよ」
「おまえが、そこまで認める男ならば、私も会ってみたい」
「いいと思うよ。――あいつなら、アンタの欲しがってる右腕にだって、きっとなれるし」
何気なくそれを口に出した――途端、「セルマ」と、硬くなった声が飛んでくる。
そこで思わずハッとして、俺は小さく息を飲んだ。
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