【前編】

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 騎士の資格を得、軍最高峰である近衛騎士団への入団が叶ってから……そろそろ一月が経とうとしている。  入団早々に、ワーズはじめ、主に平民出身者である俺と同期入団の数名が、騎士団幹部たる上官の小姓として付けられた。  とはいえ、俺が近衛騎士団長の小姓として付けられたのは、つい最近だ。  それまでは、誰の小姓とされることもなく、新米として相応しい仕事を割り当てられて過ごしてきた。  いま与えられている宿舎の部屋は四人部屋なのだが、俺以外の同室の三人ともが、それぞれ誰かれかの小姓に付けられていて。  そのうちの一人が当初、団長の小姓として付けられていたのだが……そいつは、もう居ない。  入団式から、たった三日で左遷されたから。  ゆえに、その後釜に据えられるべく、俺が団長の小姓となる任を受けたというワケだった。――まあ、きっと、他に空いている適当な人間が居なかったからだろう。  だから……俺が団長の小姓になったと知られている以上、男色関係を持ったところで、それは当たり前のことなのだ。  ここでは当たり前のように行われている、上官の性欲処理、ただそれだけのことにすぎない。  とはいえ……団長の男色趣味は、団内では知らぬ者などいないほどに有名だった。それも“真性”として。  つまり、女じゃなく、男にしか勃たない部類の人間、ということで。  なおかつ、その好みとやらが、ワーズいわく『デカくてゴツくて、いかにも男! ってタイプの男に突っ込むのがダイスキらしいんだよね。女顔のナヨっちい美形なんて歯牙にもかけないそうだから、相当だよね。そういう、ガタイが良くて無駄にプライド高くて絶対に服従なんてしなさそうな男らしーい男をムリヤリ組み敷いて屈服させるのがタマラナイ、んだってさ』、とのこと。  ワーズが、そうアクスに語っていたのを、俺も横で聞いていたのだ。  トゥーリ・アクス。――入団早々に左遷された、団長の小姓だったヤツ。
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