【14】

15/16
342人が本棚に入れています
本棚に追加
/131ページ
「まさか、『緑の恵み人』として方々を飛び回っているはずの君が、こんな場所に居るとは思わなかった―――」  帰ってきた早々に会えるとは、と、言いながら抱き締めた私の耳の後ろに口付ける。 「寝しなにあのお茶を出されなければ、きっと気付きもしなかったな」 「私のお茶、憶えていてくださったんですね」 「当たり前だろう、いつも寝る前に飲んでいたんだから。――君がいつも送ってくれる、あのお茶だけは、誰にも渡したりなんてしてない」  ほかの茶ならアレクにも分けてやったけどな、と。  それを言った、“どうだ、ちゃんと気遣いも出来てるだろう”とでも言いたげなドヤ顔が、なんだか妙に子供っぽく見えて、堪え切れずにまた吹き出してしまった。 「そこまで好いてくださっていたとは、嬉しいです」 「あれが無いと眠れないんだ。――もう君のぬくもりが傍にないと、満足に眠ることだって出来ない」 「シャルハ様……」  ふいにその手が、私の髪の一房を掬い取る。 「――髪、伸びたな……」  故郷を離れる時は、耳の下までしか無い短い髪も、この五年で、背中を覆うまでの長さにまでなっていた。  それを私は、いつも無造作にだが一つに括って、殿下に言い付けられた通り、ちゃんと耳を出して、耳飾りが見えるようにしていた。  でも今は、この温室に一人きりという気安さもあり、どうせ誰も来ないし、もうすぐ寝るし、と、括らず背中に流したままだった。 「さすが言った通り、期待を裏切らない、真っ直ぐで綺麗な髪だ」  その一房を、まるで梳るかのように殿下の指が通り、そして軽く握られて。  掌の中の髪に、ゆっくりと唇が寄せられた。 「こうやって、やっと君に、愛していると伝えられる」  ――私だって、もう知っている。  ユリサナで、長い髪に口付けるという行為は、ごくごく一般的な求愛のしるしだと―――。  女性の髪が長いのが当たり前であるこの国では、男性は、そうやって女性に愛を語り、求婚するのだ。  その想いに応える女性が返すのは……、  おもむろに背伸びをした私は、シャルハ殿下の唇へ、自分のそれを重ねる―――。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!