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「まさか、『緑の恵み人』として方々を飛び回っているはずの君が、こんな場所に居るとは思わなかった―――」
帰ってきた早々に会えるとは、と、言いながら抱き締めた私の耳の後ろに口付ける。
「寝しなにあのお茶を出されなければ、きっと気付きもしなかったな」
「私のお茶、憶えていてくださったんですね」
「当たり前だろう、いつも寝る前に飲んでいたんだから。――君がいつも送ってくれる、あのお茶だけは、誰にも渡したりなんてしてない」
ほかの茶ならアレクにも分けてやったけどな、と。
それを言った、“どうだ、ちゃんと気遣いも出来てるだろう”とでも言いたげなドヤ顔が、なんだか妙に子供っぽく見えて、堪え切れずにまた吹き出してしまった。
「そこまで好いてくださっていたとは、嬉しいです」
「あれが無いと眠れないんだ。――もう君のぬくもりが傍にないと、満足に眠ることだって出来ない」
「シャルハ様……」
ふいにその手が、私の髪の一房を掬い取る。
「――髪、伸びたな……」
故郷を離れる時は、耳の下までしか無い短い髪も、この五年で、背中を覆うまでの長さにまでなっていた。
それを私は、いつも無造作にだが一つに括って、殿下に言い付けられた通り、ちゃんと耳を出して、耳飾りが見えるようにしていた。
でも今は、この温室に一人きりという気安さもあり、どうせ誰も来ないし、もうすぐ寝るし、と、括らず背中に流したままだった。
「さすが言った通り、期待を裏切らない、真っ直ぐで綺麗な髪だ」
その一房を、まるで梳るかのように殿下の指が通り、そして軽く握られて。
掌の中の髪に、ゆっくりと唇が寄せられた。
「こうやって、やっと君に、愛していると伝えられる」
――私だって、もう知っている。
ユリサナで、長い髪に口付けるという行為は、ごくごく一般的な求愛のしるしだと―――。
女性の髪が長いのが当たり前であるこの国では、男性は、そうやって女性に愛を語り、求婚するのだ。
その想いに応える女性が返すのは……、
おもむろに背伸びをした私は、シャルハ殿下の唇へ、自分のそれを重ねる―――。
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