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 嗚咽に震える私の背中を、大きな掌が、ゆっくりと撫でさすってくれる。  それが収まってくるのを待って、ようやく私は、改めて殿下を真っ直ぐに見上げた。  相変わらず綺麗な――でも、五つ歳をとった分だけ、美しいなりに貫禄もある面構えになっただろうか。  でも、真っ直ぐで強い、その翠玉のような瞳の湛える色だけは、全く何も変わっていない。 「会いたかったです、殿下……!」  言った途端、すかさず唇がさらわれる。 「『殿下』呼びは禁止だと、君には言ったはずだろう?」  そして、互いに顔を見合わせるや、同時に吹き出した。  ――私が皇宮に居ることを、殿下が知っているはずなんてないのに……。  この五年、折を見てサンガルディアの殿下のもとへ、近況を知らせる便りだけは送っていた。  彼の国を離れるにあたり、『私とアレクへの便りは、この者を通せ』と、予め連絡をとるための手段を用意していてくださったからだ。  連絡を仲介してくださるその方は、かつてシャルハ殿下に教育係として仕えていたという、既に官吏を引退し隠居されている老師であり。その御方のもとを御用聞きに訪れる、サンガルディア王宮への出入りも許されている商人を通して、こちらの便りを届けてもらう、という仕組みになっていたのだそうだ。  だから私は三月に一度ほどの頻度で、その老師の邸宅を(おとな)い、手紙とお茶を、サンガルディアにいる殿下のもとへと言付けてもらっていた。  皇宮へ来て一月、そろそろ老師のもとへお伺いして、私が帝都にいることを伝えなければな、と、ちょうど考えていたところだった。
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