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十五歳の頃から約十年、神殿に放り込まれて以来、世俗と共に親子の縁まで絶たれていた庶子の娘に、今さら一体なんの用なのか、と。
取るものも取り合えぬまま、ただ急かされるかのようにして神殿から引きずり出され、そうやって十年ぶりに相見えた父が、開口一番、言った言葉。
『貧相だが、そう悪くはないな』
――それが十年ぶりに会う娘に対する言葉なのかよ。
貧相で悪かったな! 清貧を尊ぶ神殿の人間が、そうそう良いモンばかり食べてられると思うなよ! この脂ぎったクソジジイめ! ――などと扱き下ろしたいのはヤマヤマだったが、そこはそれ、しおらしく『申し訳ありません』と返しておくにとどめておく。
これでも、自分が痩せ過ぎて貧相な体型をしているという自覚はあるのだ、何を言われても仕方ない。
『その貧相なわたくしに、今さら何の御用でしょう?』
それは過分な嫌味口調で言ってやったのだが、しかし、この父の表情はビクともしやがらない。
挙句の果てには、こんなことまで言ってくれやがったのである。
『アリーシア。――其方は、ユリサナ皇太子殿下の側妃となるのだ』
我が国サンガルディア王国が、つい一年ほど前からユリサナ帝国の属国となっていることは知っていた。――理由は単純、戦争に負けたからだ。
時の国王の死を以て、我らが国家はユリサナ帝国に明け渡された。
神殿に引き籠っていたので細かい事情はよく知らないが、しかしユリサナ帝国は、我が国を自国に併合せず、さすがに絶対王権のみは奪ったものの、これまで通りの形で存続することを許したのだという。
だから、前王の側近として政務に深く関わっていた一部の重臣を除き、貴族はこれまでどおりの爵位を継続することを許された。
ゆえに、私の父――ティアトリード侯爵も、然り。
もともと父は、三公爵家――この国の貴族の頂点に君臨する由緒ある名門の三家、これに次ぐ名門として名を馳せていた家の当主である。我が国がユリサナの属国となった後も、その立場が変わることは無かった。
だからこそ……王や三公爵家に媚を売って現在の地位を保ってきたからこそ、今度は、新たな我が国の支配者となったユリサナ帝国に阿ることを、考え付いたのだろう。
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