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私は涙が止まらない松井さんを見守るしかなかった。
松井さんは、天井に顔を向けて眼を強く閉じて「恋するカレン」を口ずさんでいた。
松井さんは歌い終わり、私の方を見た。
「記者さんゴメンナサイ、続けましょうか」
「ハイ」
「繊維商社を辞めたワタシは、アルバイト生活をしながら人生を過ごして来ました。鉄道旅行をしたり、鉄道雑誌に鉄道や駅の写真を送ったり、自分なりの鉄道コラムを送りつけたりしたんですね。でも、雑誌では全く採用されなかった。そのストレスがワタシの負の連鎖になっていたんでしょうね」
「松井さん、その負の連鎖とは?」
「ワタシね、鉄道旅行しているウチに岡山県の事が好きに成りましてね。アルバイトが休みになると、岡山県に青春18切符で頻繁に通う様になったんですよ。岡山県に凄い風俗店がある訳じゃないですよ、好きな子が岡山に住んでた訳じゃないですよ」
松井さんはニコニコして喋っている。
「岡山県のなかでも尾道が好きでしてね、尾道に行っては風景の写真を撮ったり、レンタサイクルで尾道を探索したり、レンタカーを借りて『しまなみ海道』を通って因島や愛媛県に行ったりしていたんですよ」
「松井さん………失礼ですが、その岡山旅行はお一人で行かれていたのですか?コレは今回の事件とは関係なさ過ぎますね。プライベート過ぎる質問でした。忘れて下さい」
松井さんが顔を赤らめる。
「記者さん、イイですよ。私の転落はこういうトコロも原因なのかもしれない。自分を変える為……岡山は全て一人で行っていましたね。その……」
「その?」
「そのワタシ女性と付き合った事が今まで一度も無いんですよ。童貞ですね、風俗も行ったことは有りません………男性に興味がある趣味では無いんです」
「そうですか、ありがとうございます」
「女性には興味ありましたが、アプローチの仕方が今にして思えば悪過ぎましたね」
「何が悪かったのですか?」
「繊維商社の頃からですが、社内で女性同士が会話していたら、そこへ会話のキッカケを作ろうと強引に会話に入るんです。そこで面白い事を言えば女性が振り向くと思い、最初の会話と関係ないワタシが中心の会話を行なっていましたね」
「そうですか」
「記者さんの予想どうりですが、ワタシが会話に入り込んだ女性達は最初は笑顔ですが、次第に無口になって会話が尻すぼみになる。次第にワタシが近づくと、女性達が会話をヤメて消えていきましたね」
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