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「アルバイトは色々しましたね。建築現場やコンビニやハンバーガー店、クレジットカードの督促、その後に過払金請求の弁護士事務所、風俗嬢の通勤送り迎え。本当に色々やりましたね。でも、ワタシが職を転々としてるのも自分自身を制御出来ないのが問題だとは判ってました。ましたが自分のセイでは無く他人のセイにする繰り返しでしたね」 「やはり人間関係が転職の原因でしたか?」 「そうです。人間のクセなんてスグに直るワケが無いんですよ。最初は一生懸命働きますが、職場の同僚と友達に成りたいと思い、飴を配る、他人の会話に入り込んで会話の芯を自分が取る」 「そうですか」 「その頃に加わった悪いクセが、やたらと会話に『岡山』を入れるようなりましたね」 「どんな風に『岡山』を会話に入れるんですか?」 「そうですね、例えば『フェラーリ』の話を会社の同僚が話していたら、その会話に入り込んで『フェラーリの話もあるけど岡山県の話があってね』と喋り出すんですよ」 「それを色々な職場でやっていたんですか?それはダメですよ」 「でも、本当にワタシ狂っていたんでしょうね」 「何がですか?」 「最初に記者さんに言った『ワタシは弁護士だ』の発言、そんな訳無いんですよ。資格持って………ウッウッ」 松井さんは再度泣いてしまった。今度は号泣だ。 「ウッウッウー」 5分たっても泣き止まない。インタビュー時間が減ってくる。 「松井さん、大丈夫ですか?」 松井さんはナントカ泣き止んだ。 「記者さん、本当にゴメンナサイ」 「イエイエ」 「ワタシね弁護士でも無くて、郵便局を作ったんでも無いんですよ」 「そうですか」 松井さんは黙り込んだ。 「もしもし松井さん」 目の前で話しかけても、松井さんは目を開けて正面を見据えて黙っている。 松井さんは何かを歌い出した。 後で調べたら、大瀧詠一「さらばシベリア鉄道」だった。
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