序章 逢魔(おうま)が時

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「諦めて」  その声は、 満足そうに笑っていた。  俺の知っているどことなく遠慮がちな気弱な風情ではなく――どこまでも傲慢に。 他者を支配することに慣れた視線が、 俺を貫く。  俺は混乱したまま、 その瞳を愕然と見返していた。 「あなたはぼくの為に選ばれた番(メス)なんだから……ね、 先生」  幼さを十分に残した――当たり前だ。 まだ、 子供なのだから。  相手はつい最近まで、 初等部だったのだ。 年齢も体格も、 俺と違い過ぎる。  そんな相手に、 自身の尊厳を奪われようとしているなんて、 どうしようもなく馬鹿げた話だ。 羞恥と怒りと……隠しきれない絶望に、 俺は怯えていた。 それをどうにか表に出さないようにしているが、 本能が……圧倒される。
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