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「やっぱり東京は高いなー……」
本日3件目になる物件探しを終え、ふっ、と息をついた。
不動産屋のウィンドウディスプレイに並ぶ図面の数々は、田舎の物件の敷地半分がいいとこなのに、金額は倍近くする。
(もういっそのこと千葉や埼玉あたりにしようか……)
別に東京に拘る必要はない。
もう自分1人の力で生活出来るのだと証明したかっただけ。
誰に、と言うわけでもない。
ただ、あの狭苦しい家にこれからも留まるつもりは毛頭なかった。
そこでふと浮かんだのが東京というだけだ。
「けど……正直舐めてたわ……」
ぽつり、と零した弱音は、街中の喧騒へ攫われた。
誰一人として、僕の独り言に気づいた様子はない。
こういう時、改めて自分は一人なのだという事実を実感するのは嫌じゃない。けれど、共に友人の一人でもいたらいいのにな、と思うのも確かだった。
「はぁ……」
無意識のうちに、大きなため息が零れた。
住む場所なんて、最低限風呂とトイレがあればいいと思っていたけれど、実際に足を踏み入れてみると、そう簡単にはいかない。
案外自分はわがままなのだと思い知った。
(……でもいい加減妥協しないとな)
家が見つかるまではカプセルホテルに住む予定だったが、それももう五日目となり、資金が底をつき始めている。今後のことも考えて、これ以上の出費は抑えておきたいところだった。
(5万6千円で6畳ワンルーム……築年数32年……)
世辞にも綺麗とは言い難い写真付きの間取りを眺めながら、もうここに決めてしまおうか、なんてヤケな思考が過ぎった瞬間。
「……ん?」
ちらりと目に入った“無料“の字の面影を追いかける。
敷金礼金か、もしくは管理費か、その両方か。
どちらだけでも構わないが、今は少しで安く、いい物件を見つけたい。指でなぞりながら一つ一つ眺めていくと、僕の人差し指はぴたりと“無料”の文字の上で止まった。
「訳あり物件…………家賃無料!?」
その文を読みあげていくにつれ、徐々に大きくなった俺の声に、訝しげな反応を示す通行人。
慌てて声を抑えて、再びその紙面へと目を走らせる。
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