何よりも高価

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「新入りくん!分からないことがあったら真っ先におれに聞くといい!」 「わっ」 突然横から迫った顔に思わず仰け反った。 彼もここの住人の一人らしい。 年齢は、顔だけみれば僕と同じくらいに見えるが、Tシャツに描かれた可愛らしいクマのイラストが、幼さをより後押しした。 「ど、どうも…」 人懐っこい笑みを浮かべて近寄る彼に、軽く挨拶代わりの作り笑いを送る。 しかし、それを見たブロンドの男性が、僕の戸惑いを見透かす。呆れたように彼の首根っこを掴んで引き剥がしてくれた。 「…ヒカル。あんまり驚かせないように」 語りかける口調は母親のように優しく、それだけで彼らの仲の良さが伺える。 “だってー”と口を尖らせる青年に、彼はその額を指で弾いた。 微笑ましくもあり、羨ましくもある。 「やっぱり仲いいんですね。シェアハウスともなると」 「「……え?」」 正直にそう口にすると、二人は何故か一瞬真顔になり、その後、顔を見合わせて笑った。 (僕、そんなおかしなこと言ったか……?) 「あ、あの……なんか変なこといいました?」 「……ふふ、これから君も仲良くなるんだよ」 “俺達みたいにね”そう付け足しては、声を上げて笑う二人に目を向けていると、視界が黒い影に塞がれた。 さっと、視線を上げると、いつの間にか長身の男性が僕を見下ろしている。 (この人……さっきの!) 間違いない。 見ただけで分かる、不機嫌オーラは、さっきの声の主を思い出させた。 人を射抜く冷たい視線に、背筋がぞっと凍る。 真っ先に挨拶をしなければならなかったはずなのに。どうして。後悔しても遅い。 「……アオイ、と言ったか」 「…………は、はいっ!」 ご挨拶が遅れてすみません、相馬アオイです。趣味は料理です。よろしくお願いします。 チープな自己紹介が脳内を駆け回っては、そのままどこかへと飛んでいった。 低く胸に響いた彼の声は、その存在感をより感じさせる。目まで掛かった黒髪から除く視線が心臓を鷲掴みにして、離さない。 (こ……こぇえー……!!) 視線を背けることも叶わず、身のすくむ思いで立っていた僕は、その後唐突に訪れることになる感触にも反応が遅れた。 (……へ?) ひんやりとした体温が僕を緊張の渦から解き放った。 少し乾いた感触が唇へと落とされる。 至近距離で、ふわりと薫ったシトラスの香水の匂いが僕の脳を麻痺させた。
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