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随分長い間そうされていたと思う。
気づいた時には、頭が真っ白になっていて酸欠によるものだと分かった。
かろうじて残っていた意識を手放しそうになった瞬間、ゆっくりと離れていった体温に再びむせることしか出来ない。
喉から流れた唾液がまるで、自分の一部になるかのように胃に染み渡る感覚が気持ち悪くて、吐き出そうと大げさに咳き込んだ。
けれど、胸が苦しくなるばかりで叶わなかった。
そんな僕の惨めな姿を見下ろす彼の瞳は、相変わらず冷たい。
続けて、ふん、と鼻で笑えば、不気味に上がった口角が、低く、耳元で囁く。
「よくできました」
「……っ!」
途端にこの状況が恥ずかしく思えてきて、顔が一気に火照るのがわかる。
(……僕……こいつと……キス、した……っ!?)
近くにある身体を突き飛ばして、羞恥心を紛らわせば、彼は一瞬目を丸くした後、くつくつと喉を鳴らし笑った。
そして、僕の方に手を伸ばしながらこう続けた。
「今日からお前もココの住人だ」
「……だ、誰が!!」
差し出された手を振り払った。
扉を背に支えられながら震える足で立ち上がる。
(幸い出口は真後ろなわけだし……、隙を見てドアノブに手をかければ……)
視線はあくまで彼から逸らさないまま、手でその存在をまさぐる。
触れたのは無機物の冷たい鉄の感触……、とは反対の、柔らかい肌の感触だった。
「……どこにいくの?君の家はココなのに」
わざとらしく首を傾げると、ブロンドの髪がさらりと落ちた。
顔には変わらず笑みが刻まれているが、握られた力の強さからは、優しさなど微塵も感じない。
「あはっ、諦めなって!きっと楽しいから」
「……ぁ……」
するりと頬を滑る手の感触に身をよじれば、どこにも逃げ場はないというように、6つの瞳に囲われていた。
もう、逃げられそうにない。
3人の瞳に熱が灯るのを僕はただ、見ていることしかできなかった。
「支払い方法は身体で済ませてもらう」
僕は今日から、タダより高いものはないのだと身をもって知ることになった。
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