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第1話「春の夜の夢のごとし」
その人は「神童」と言われていた―――――。
■ 1 ■
出会いは三月の終わり。
四月より始まる次期に向けて、大学内の引っ越しをしてた時だった。
書籍整理や虫干しなどをしてた瓜生先生の研究室は、僕の部屋とは比べものにならないほど未だ酷い有様だった。
外に出し切れなかった本や論文が、教授の机の周りや学生用の大机の上を所狭しと並べられていた。
教授の蔵書の量が桁違いだから、まだまだ講師の僕なんかの研究室と比べるのがそもそもの間違いなんだけど。
「とりあえず、今日は終わろうか」
果てが見えぬ片付けに一旦キリを付け、瓜生教授がそう仰ると、ゼミ生は一同ほっとして
「お疲れ様でした」
「じゃ、続きは明日」
などと口々に挨拶して、帰っていった。
僕は、この大学に在籍して既に七年になる。学生の頃からカウントすれば、かれこれ十一年も瓜生先生にはお世話になっている。
そんな助教授でもないただの厄介者の僕が、教授の隣に研究室をいただけたのはとても稀で、かつ光栄なことだった。
僕が助教授という肩書きを得るには、上の席が空くことが必定だった。
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