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追加の章「伝へ承るこそ心もことばも及ばれね」
二月中旬のとある日。
僕は大学から帰って、すぐさまこたつの電源を入れた。
寒くって寒くって、とにかくすぐに暖まりたかったからだ。
だけど、こたつがやっといい感じに暖まった頃に、ドアベルの音が聞こえた。
(やっと暖まれると思ったのに……)
僕は重い腰を上げる。
「はい」
返事しつつ玄関のドアを開けると、七海君が白い息を吐きながらそこに居た。
「七海君、どうしたの?」
七海君ならばいつでもうちに来てくれてもいいのだけど、今日はなんだかいつもと雰囲気が違う気がした。
「水野先生。今日が何の日か、知ってる?」
と七海君は訊いてきた。
「二月十四日だよね。えーっと……」
何の日だっけ?
「とりあえず、中に入って。寒いだろう?」
と、彼を部屋に入れた。
「何の日か分からずに、誤魔化してない? 先生」
七海君は、くるぶしまで隠れるバイク用の靴紐を解きながら僕に鋭い指摘をしてきた。
「……えっと、あの……あ! そうだ! 七海君、お誕生日おめでとう」
僕は一か八かの賭けに出た。
だが
「まだ、俺の誕生日を覚えてないのか……」
やぶ蛇。
七海君に呆れられてしまった。
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